第9話 乙女刑事の胸のサイズは
新人下着モデル、レイラのデビュー。
必死に練習したランウェイ。始まった。優雅で、可愛く。誘うように。できているのかな。
お尻に自分の肩ほどもあるペルシャ猫の尻尾をピンと突き立てて。ペルシャ猫は長い尻尾を突き立てたりはしないが、これも鬼才ドン・ハルキサワの独創的意匠なのだ
尻尾とは。最初、これにはにはレイラも驚いた。が、これが最先端というものなのだろう。自分の常識なんかここじゃ通用しないんだ。ファッションの世界。何が起きてもおかしくない。
とにかく落ち着くんだ。トップモデルの先輩たちが先を行く。自分は1番後ろ。目の前をランウェイするのは、ピンクの華やかな下着のネクリ。うん。誰も自分になんか注目してない。誰も見ていない。そうだ。緊張することなんてないんだ。
観衆のどよめき、続いている。激しく焚かれるフラッシュ。周りはもうなにも見えない。
司会も絶叫続けているが、レイラの耳には何も入っていなかった。
ショーの熱狂は、間違いなく頂点に。
◇
観客席最前列のニーナ、クラクラになっていた。いつも配信中継で見ていたが、生での会場観覧は初めてなのだ。
「や、やっぱり、違いますね。ドン・ハルキサワの新作。これが最先端……もう、見ただけで、宇宙が一回転しそうです」
隣のバリル警視。陶然、というか、卒倒しそうになっている。
熱狂と興奮と喝采と拍手の渦の中。ショーのヤマ場、ドン・ハルキサワの新作コレクション、大盛況である。
トップモデルたち、優雅にランウェイし、ターンして、また戻っていく。
「あの子で、最後か」
ニーナの目は、最後尾のモデルに。
シンプルな白いブラジャーとショーツ。お尻には、ペルシャ猫の艶やかな長い尻尾がピンと立っている。
やや、ぎこちない歩き方だ。ちょっと表情も硬いような。
「新人のモデルの子かな」
この圧巻のステージに初デビューなら、緊張しない方がおかしいだろう。
でも、弾けるような初々しさはある。それはそれで、いい感じだ。スタイルが良く、肌もすごく綺麗。
「あれ?」
ニーナは、気づいた。
最後尾をランウェイする新人モデル。
この顔。
知っている。どこかで見た顔だ
どこだろう?
「え? もしかして」
ニーナ、突如、思い出す。記憶力観察力が自慢の女性警官なのだ。
確か、警察本部で会った!
宇宙警察の警察官、刑事だ!
レイラという名前の。
「まさか!」
自分の目を信じられないニーナは、隣のバリルをせっつく。
「警視、見てください。今、こっちに来るモデルの子、1番後ろの。ひょっとしてもしかして、レイラ刑事じゃないですか?」
「うん?」
圧巻のステージに、とろんとなっていたバリル。
目を凝らして、最後尾のモデルを見る。
「うーん、なかなかいい子だな。ピチピチして、フレッシュで。胸の形、ボリュームも最高にいい感じな。あれは、そう……メロン級はある」
「警視! そうじゃなくて!」
「え?」
「あの子、うちの刑事に見えませんか?」
「刑事? まさか」
慌ててしっかりとレイラを見据えるバリル。
「なんてこった」
驚きの警視。
「ありゃ、レイラ君じゃないのか?」
「ええ、だから、そう言ってるんです」
「なんと」
バリルは、頭を撫でる。夢の下着ファッションショーの世界から、いきなり警察の話に引き戻されて、混乱している。
「レイラ君に、似ている……しかし、刑事がこんなところでモデルをしてるなんて、絶対ありえん」
「ええ、その通りです」
「それとも、最近じゃ、刑事も下着モデルの副業をするようになったのか?」
「まさか! ありえません。宇宙警察は慢性的な予算不足ですが、そんな副業は認めていません」
「そうすると」
今はあまり警察のことを考えたくないバリルは、あっさりと詮索を打ち切った。
「あれは刑事ではない。当然、レイラ君でもない。他人の空似だろう。宇宙には、億兆の人間がいる。そっくりの人間だって、いくらでもいる。それに、レイラ君は、あんなに形の良い胸はしてなかった。それは間違いない。私は彼女のことをよく知ってるからね」
「なにをいってるんですか」
ニーナは、頭を抱える。
「勤務中は、胸をきっちり締め付けてるに決まってるじゃないありませんか。女性警察官が、勤務中に胸をアピールするなんて有り得ません」
「そ、そうなのか。レイラ刑事が実はあんな胸を……いや、しかし、ともあれ、刑事が下着ショーに出演なんて、絶対にありえん。他人の空似。それでいい。間違いない。宇宙警察星域本部長であるこの私が言うんだ。今日はこのまましっかり楽しもう。そう決めてるんだ。ニーナ君。警察は忙しいのだ。余計な面倒は起こさんで来れ。」
「もう。私は面倒を起こしてません。でも、確かにありえないことだとは思います。刑事が下着モデルだなんて」
「うむ。そうだ。宇宙開闢以来、そんなことは起きてない。だから今日も起きない。そういうことだ」
「……はい」
目の錯覚……とてもそうは。思えないけど
バリルは、すっかり下着モデルにデレデレ陶酔モードに戻っている。
ニーナも。
他人の空似説を受け入れることにした。
何はともあれ、警察官である事は忘れて、ショーにかぶりつきたい2人であった。待ちに待った夢の世界なのである。




