第86話 竜宮城への招待
燦々とと降りしきる熱帯の陽光の下、巨大岩亀の甲羅の上で青くなって、ガタガタと震えているレイラとネクリ。
岩亀は、そんな2人の気も知らず、悠々と大海原を泳いでいく。
「あれ?」
青い海の上。前方に何か見えた。レイラが立ち上がる。
「あれ、ひょっとして島?」
ネクリの声も、力を取り戻している。
島だった。岩亀は、まっすぐ島を目指し、泳いでいく。ぐんぐんと近づいてくる。
結構大きい島だ。
海から突き出た、小山のような島。山頂には、樹木も茂っている。海面に水没することのない、ちゃんとした島だ。
「助かった! 亀さんは、私たちをあそこへ連れて行ってくれるんだね」
ネクリが、顔を輝かせる。
「そうだね。何とか一安心だね」
レイラも。
前方見える島は、無人島っぽく見える。しかし、とにかく、ちゃんとした陸地だ。いつ海に潜ってちゃうかもわからない亀の甲羅の上で震えているより、ずっといい。落ち着いて、救援を待てる。
「ねえ、レイラ」
ついさっきまで恐怖でいっぱいだったネクリ、今は瞳をキラキラさせている。
「何?」
「あれってもしかして、竜宮城じゃないかな?」
「竜宮城?」
超古代のおとぎ話だ。確か、亀を助けた人間が、そこに連れて行ってもらって、歓待されたとかなんとか。
別に私たち、亀を助けたりなんかしてないけど。と、レイラは思うのだが、
「うん。この亀さん、最初から、私たちを竜宮城に招待してくれるつもりだったんじゃない?」
やれやれ。
ネクリ、ずいぶんとまあ、脳天気だな。
まだ助かると、確実に決まったわけでもないんだけど。
それに竜宮城? よくて、ただの無人島だと思うけど。
◇
島は、もう間近。
「洞窟があるね。結構でっかいな」
レイラは、注視する。
島の正面の崖に大きな洞窟が口を開いている。海面にあるので、海水が洞窟の奥まで流れ込んでいっている。
巨大岩亀は、迷わず洞窟へと進んでいく。
ぐんぐん迫る洞窟の入り口。
「いいのかな、このまま亀さんと一緒に中にはいっちゃって」
レイラは考えながら、言う。
でも、ここでネクリと一緒に海に飛び込んでも。
島の周囲は断崖絶壁になっている。結構高い。ネクリはあまり泳ぎができないというし、海から這い上がってよじ登るのは無理そうだ。
「亀さんが入るところなんだから、大丈夫よ」
と、ネクリ。すっかり亀を信用しているらしい。
行くしかないか。
甲羅の上の2人は、亀と一緒に、洞窟へと吸い込まれていく。
◇
「なんか、真っ暗だね。明かりとかないんだ。当然だよね」
洞窟の奥へ進んで、レイラが言ったか言わないうちに、
「きゃあーっ!」
突如、亀が下へ滑り落ちていく。
「なんなの!」
洞窟の奥。滑り台みたいに急斜面で降下していた。流れが速い。まるでウォータースライダーだ。
危ない!
とっさにレイラは、ネクリをかばう。ここで吹っ飛ばされたら、洞窟の壁にぶつかって、激しい海流に呑まれて、それっきりだ。
「ネクリ、しっかりと甲羅に掴まって。私が支えるからね」
甲羅の突起にしっかりとしがみつくネクリ。ネクリはそんなに腕力筋力体力のある子じゃない。激しい流れの中。ガタガタ揺れる甲羅の上。吹っ飛ばされるのも時間の問題だ。レイラはすぐにネクリに覆いかぶさって自分も甲羅にしがみつく。小柄なネクリを、長身のレイラががっちり押さえ込んで甲羅にしがみつく。これなら大丈夫だ。
無我夢中でしがみつく2人。
やがて、流れが緩やかになった。洞窟の急斜面急降下は終わった。時間にしたら一瞬のことだったけど、真っ暗な中、2人の恐怖は最高潮だった
レイラ、顔を上げる。
依然として洞窟の中。
あれ? 洞窟の天井や、壁が見える。ぼんやりふわふわした、光があちこちに灯っている。なんだろう。それにしても、広い空間だ。
岩亀は。
悠然と泳ぎ、奥に進み、そして、岸にたどり着く。
「ここで、降りろってことなのかな」
レイラとネクリ。
やっとのことで、亀の背の甲羅の上から降りた。
岸辺に立つ。
とうとう、たどり着いた陸地。洞窟の中だけど。
亀は。
2人が降りたのを見届けると、くるっと向きを変え、進み、やがて水の中に潜って消えた。
残された2人。唖然となって、亀の消えた水面を見つめていた。




