第84話 動く岩
レイラとネクリ。
2人はビーチのはずれまで来た。
もう人は疎ら。
ビーチの端に、ロープが張ってあり、立ち入り禁止と看板が出ていた。ロープの向こうは、岩場になっている。
立入禁止か。向こう側に行けば、安心かな。
レイラは思う。
元気いっぱいの警察女子。すごいパワーとエネルギーではしゃぎまくっていた。ビーチじゃどこにいても、いつ出っくわすか、わかったものではない。
今日はあれこれ忘れてのんびりする日だ。
「ネクリ、向こうの岩場のほうに行ってみない? おもしろそうだよ。ちょっと冒険してみようよ」
「え?」
ネクリはやや不安げに、
「立入禁止だよ。危ないんじゃないの?」
「ふふ、心配ないよ。こういうリゾートじゃ、とにかく何でも過保護にできてるのよ。やってきたお客様には目の届くところにいて欲しいって、ただそれだけだから」
「そうかな。でもこういうのって、きっちり警報器が張ってあると思うよ」
宇宙世紀である。なんでも電子機器管理されているのだ。
「そうね。でも、こういうところの警報器網って、たいしたことないから。ちょっと待ってて」
レイラ、ビーチと岩場の間のロープの周辺を調べる。
あった。
警報器。思った通り、それほど高度なものではない。観光エリアを区切っているだけのものだ。
これなら簡単に解除できる。
レイラは持参の小道具を取り出す。刑事として、ちょっとした道具はいつも持ち歩いているのだ。光線銃をぶら下げて歩いたりはしないが。
電子迷彩を使い、警報器の電子探知網の壁に、穴を開ける。わけはない。
「ネクリ、大丈夫だよ。私の後についてきて」
「え、いいの?」
レイラはネクリの手を引き、電子迷彩の穴をとって、向こう側に行く。
「ほら、警報器鳴らなかったでしょ?」
「本当だ。すごい、レイラ。なんでこんなことができるの?」
「ふふ、秘密。みんなには言わないでね。さ、行ってみよう」
2人は、でこぼこした岩場を奥へ進んでいく。
すぐにビーチが見えなくなった。青い空と海の中。ネクリと2人だけだ。
「こっちにも、いろいろいるね」
目をキラキラとさせるネクリ。
岩と海が入り組んでいる。魚に海藻、貝にイソギンチャク、海の生物のあれこれが、いろいろと蠢いている。めったに来ない人間の闖入者に、みんな迷惑顔をしているように見える。
2人はキャッキャしながら岩と海の間を歩き、ひとしきり、迷惑顔の生き物たちをつついたり触ったり捕まえたりして遊ぶと、海に突き出た大きなテーブル状の岩の上に、腰を下ろす。
のんびりと青い水平線を見つめる2人。
「なんだかお腹空いて来ちゃった」
ネクリが言う。
「そうだね。戻ろうか」
戻ったら。警察女子の一団に見つからないように気をつけて、どこか海辺の喫茶店にでも入ろう。
レイラが、立ち上がろうとした時。
グラッ、
岩が揺れた。
「何、地震?」
レイラ、驚く。今日、地震の予知なんてあったっけ? この時代、地震だなんでは、正確に予知ができるのだ。地震の予報なんてなかったはずなんだけど。
しかし。
グラッ、
また、岩が揺れる。間違いなくしっかりと揺れた。
「なんなの?」
レイラが言うのと同時に。
岩が動いた。
「キャーっ!」
悲鳴をあげるレイラとネクリ。
岩は沖に向かって、動き出した。
◇
動く。というより、それは発進と言ったほうがよかった。
ゆっくりだったのは最初だけで、すぐに猛スピードとなった。猛スピードで、沖へ進んでいくのである。
「何なの、これ!」
レイラはパニックとなる。何が起きてるんだか全くわからない。猛スピードの岩。幸い、岩には、ちょうど掴まりやすい取手のように突き出でた部分がいっぱいあった。それに掴まる。ネクリも必死にしがみついている。
「この岩、浮き島だったの? それがたまたま高速海流に乗って流されちゃってるの? まさか!」
ありえないことだ。でも、確実に沖へ向かっている。ビーチや岩場は遥か遠くに見える。
「どうなってるんだろう」
つぶやくレイラの目に。
岩の前方から、何かが首をもたげる。
それはまさに首だった。
爬虫類の頭だ。なにこれ。海面から出てきた。首は。この岩にくっついてる、そう見える。
岩から突き出た大きな頭。こっちを振り向く。二つの赤い瞳。
爬虫類の首は、2人に向かって、ちょこんと頭を下げた。
「あ」
レイラはやっと気づく。
「もしかして」
猛スピードで海を行くテーブル状の岩。これって岩でも浮き島でもなくて。
「ひょっとして、岩ガメ!?」
岩そっくりの甲羅を持った、でっかい亀。
その背中に、知らずに乗っちゃった。そういうこと? で、亀が動き出した。
なんだか。
かなり、まずい。




