第82話 数列家下着モデルの戦い
レイラは、モデルの寮となっているタワービルに戻った。
そしてカオリの様子を見に行く。
カオリの部屋には、ルイーザと、白衣の男がいた。
白衣の男は医者だった。カオリを心配したルイーザが、連れてきたのだった。
さっきは朦朧として、譫言を言っていたカオリだが、今はスヤスヤと眠っている。目も開けない。
「これは、心配ないですな」
診察を終えた医者は言った。カオリは、ずっと眠っている。
「確かに高熱で、今は目も開かんが、もうじきよくなるでしょう。峠は越している。これはなんというか、頭の使いすぎで起きる発作熱のようなものですな」
「発作熱? 頭の使いすぎで熱が?」
ルイーザ、目を丸くする。
「そんなことあるんですか?」
「うむ」
医者は咳払いをして、答える。
「なんというか、世の中には、普通じゃない頭の使い方をする人間も居る。そうすると、ちょっと特殊な症状が出るんです。稀なこととはいえ、そういう事例が報告されています。ま、一般の我々には関係ないことですな。よほど頭が捩れるくらい考えないと、出ない熱だそうです。3 、4日、水を飲んで寝ていれば自然と治ります」
医者とルイーザは、帰っていた。
◇
レイラはまだ心配だったので、部屋に残ってカオリのことを見守っていた。
数列熱。頭の使い過ぎで起きる発作熱。
みんながそういうんだから、それが正しいのだろう。
3、4日寝ていれば治る。
さっき私が来たときのカオリは、1番最悪の状態の時だったんだ。まずい時に来ちゃったんだ。
なんだ。
レイラはがっくりと力が抜ける。
結局今日は、1人で無駄に騒いだだけだったんだ。
しばらくして。
カオリの目が開いた。
「レイラさん」
起き上がる。すっきりとした顔をしている。頬の赤みはもうなく、いつもの病的な白い膚である。
「あの、ずっと私の看病してくれたんですか? 熱でうなされていた時、レイラさんがそばにいてくれたの、覚えています」
あんまりちゃんと覚えていないようだな。別にいいけど。
レイラは、にっこりとする。
「よかった。みんな心配したよ。お菓子とサンドイッチあるよ。ドリンクも、いろいろ」
冷蔵庫に入れておいた、お見舞いの品を取り出す。
カオリは、ケーキを少しずつ食べる。
「すっかりご心配おかけしたみたいですね。申し訳ありません。時々こうなるんです。これは、数列熱なのです」
「うん。聞いたよ」
「この宇宙の、森羅万象、万物を支配する法理を究めることが数列家の道なのです。それは時にこの脳に耐え難いことなのです。これは戦いなのです。私は戦い続けなければなりません。それが数列家の宿命なのです。」
「そうみたいだね。あんまり無理しないでね」
レスタード。数列に取り憑かれたあげく、暴走した男。カオリもあんな風にならなきゃいいんだけど。
「あ」
カオリが、何かに思い当たった。
「大変だ。こうしちゃいられない。私、大事な仕事があったんです」
「ああ、その件ね」
と、レイラ。
「大丈夫よ。もう片付いたから。数列家協会に問い合わせてみて」
「え?」
驚くカオリ。
「レイラさん、ご存知なんですか?」
「うん。少しね」
キョトンとしてこちらを見つめるカオリを前に、レイラは安堵していた。
数列家のトラブルに巻き込まれちゃったけど。
無事に一見落着した。とにかくよかった。
連絡先も1つ手に入れたし。
◇
華やかな下着モデルの世界に身を置いて。
レイラの潜入捜査は続く。
( 事件簿No.7 瀕死の下着モデル 了 )




