第81話 カフェでの作法
「ちゃんとお礼するから。何がいい?」
レイラは、笑顔で言った。やっぱり借りはちゃんと清算しておかなきゃ。
ギルバンは、ニヤリと。
「話のわかるお嬢さんだ。では、夜のお相手を」
ベシッ、
レイラは、ギルバンをひっぱたいた。
「あのさ、あなたに助けてもらった事は、本当に感謝している。でも、助けてくれたからって、きちんとした態度を取らなくていいってことにはならないんだから。そういう口の利き方、最低。わかった?」
きっと睨みつけるレイラ。
「うん……冗談だよ」
ギルバンは、赤くなった頬を擦る。
「この前は殴ってきたのに、今度は平手打ちか」
「あなた、言ったじゃない。男を殴るなら本気で殴れと。私、今、あなたの顔を本気で撃ち抜きたくないの。大恩人だしね」
「優しいんだな……ま、本気で殴ってきたら、きっちり防御するぜ」
◇
結局。
2人は喫茶店へ行った。ギルバンがそれでいいと言ったのだ。レイラはなるべくおしゃれな喫茶店を選ぶ。
ギルバンは、コートと帽子のまま、席に座った。レイラはその正面に。
「本当にコーヒーだけでいいの?」
「ああ」
ギルバンは、ソフト帽をちょっと持ち上げた。
「姫にコーヒーを奢ってもらえるなんて、この身に余る光栄に存じます」
「もう」
レイラは、ふくれる。なんだかほんとに油断できない男だ。からかってるのか。それでいて鋭い目つきをしている。
頼んだブラックコーヒーが来ると。ギルバンは、ポケットからウイスキーの瓶を取り出し、どくどくとコーヒーカップに注ぐ。
レイラは呆れた。
「そういうの、すっごく下品だから。こういう喫茶店でしちゃダメ」
「俺は、どこでもしたいようにするのさ」
ギルバンは、うまそうにウイスキー入りのコーヒーを飲む。
喫茶店のウェイトレスは、見えないふりをしていた。
レイラは、自分のカフェオレを、啜る。
どういう2人組だと思われているんだろう。
こいつとカップルだと思われている?
それは、ちょっと……
◇
本当にコーヒー1杯だけで、ギルバンと別れた。
連絡先を交換しよう、とギルバンは言った。
「何かあったとき、コーヒー1杯で、美女を助けに飛んでくる男がいるっていうのは、役に立つものだぜ。お嬢さん、あんたはなんだか途轍もない厄介事に進んで飛び込んでいく性格に見えるしね」
レイラ、うぐぐ、となる。
途轍もない厄介事に飛び込んでいくか。そりゃ、刑事だからそうだけど。今の下着モデル潜入捜査も、自分の判断でやっていることだし。
「ねえ、ギルバン」
レイラは言った。
「今の時代わかっているの? いいえ、50億年前だって、美女だからとか、美女じゃないからとか、そういう言い方、すっごく寒いんだから」
2人は連絡先を交換して別れた。
別にレイラから連絡するつもりはなかったが、ギルバン、かなりの手練な私立探偵。この男とは、またどこかで出会う予感がした。




