第73話 罠
踊り跳ねる数字に記号。
数列兵器だ!
またまた、なんだかの誤解だ勘違いだで攻撃されちゃってる!
カオリは兵器凶器じゃないとかいってたけど、これ、立派な兵器。
しかし、2度目だ。レイラに落ち着く余裕ある。
対処法。既に知っているのだ。以前、カオリと戦っている。
これは視覚兵器。踊る数列の立体映像が見るものを幻惑し、支配する。その先には、分解だか何だかもできるらしい。とても信じられないことだけど。
これを打ち消すには。まずは、視界を消す。そうすれば問題ない。
レイラは、ジャケットの内ポケットから、小型の特殊器具を取り出す。強烈な照明。閃光を焚くのだ。閃光で視界を真っ白にしてしまえば、数字も記号も見えなくなる。数列兵器は無効化できる。前にやって成功した。
「数列家か。私に同じ手は2度も通用しないぞ」
とにかく、攻撃されている以上身を守らなければならない。きちんと身の安全を確保した上で、しっかり話して誤解を解けばいい。
レイラが閃光を焚こうとした時、
ドコッ、
「え?」
レイラの体が宙に浮いた。
いや。
浮いたのではない。抜けた。床が抜けたのだ。突然、足元がなくなった。
「なんなの!?」
一瞬、数列攻撃の効果で空間感覚がおかしくなったのかと思った。でも。すぐに急降下する感覚。落ちていく。そして。
ドッスーン!
抜けた床の、さらにその下の床に叩きつけられた。
「うぐ、痛たた」
とっさに受け身を取ったから大事ではないが、膝とか肘をぶつけた。強い痛み。間違いなく落ちた。落下。空間感覚の異常とかでは無い。
なんだ?
見上げる。落ちたのは2メートルくらい。
落とし穴だ。床に落とし穴が作ってあったんだ。ちょうどレイラが椅子に座っていた床の部分が、四角く抜けてブランと垂れ下がっている。さっきまで座ってた椅子も、下に転がっている。
本当に古典的な落とし穴だ。でも全然気づかなかった。こんな仕掛けが普通の家にあるなんてわかるわけない。
なんでこんな仕掛けを?
「ふっふっふ。どうかな? お嬢さん。わしの罠は」
上からレスタードが覗き込んでいる。得意満面の笑みを浮かべている。この男、いつも来訪者を警戒していて落とし穴に落とせる準備をしてたってこと? やっぱり普通じゃない! ちょっとおかしい! いや、ちょっとじゃなくて、完全に狂ってる!
「こういうのを罠というのじゃよ。いつ、わしの敵がここに現れ、これに嵌まるかと思っていたが、まさかこんなお嬢さんが、最初の獲物とはな。準備しておいて本当によかったわい」
「あの、誤解ですから! 私はあなたの敵じゃありません!」
レイラが叫ぶ。
だが。
「往生際が悪いの、お嬢さん」
ひっひっというレスタードの笑い声と共に、数字と記号が踊り跳ねながら、落とし穴の中に満ち溢れてきた。
「きゃあああっ!」
レイラ、悲鳴をあげる。切り札の閃光機器は、床が抜けたときに、落としてしまった。探して拾う時間がない。
頭がぐるぐるする。手足が動かない。ピクリともしない。
うわあ、最悪だ。
このまま数列攻撃に抵抗できないでいるとどうなっちゃうんだろう?
カオリがやろうとしたように、〝分解〟されちゃうの?
「いやああああっ!」
レイラは叫ぶ。いや叫んだつもりだったが、もう声も出ない。
無数の数字と記号が目の前を踊っている。圧迫感。レイラを完全に取り籠めている。逃げられない。
汗がダラダラと出る。息もできない。
私、このまま……もうダメなの……?
意識が薄れていく。
見下ろすレスタードの顔がぼんやりと見える。
数字と記号の舞踏。
レイラの意識が、完全に消えた。




