第71話 数列家の家
レスタード教授の家。
扉を開けて入ると、中はがらんとした大きな部屋。広間といってもいいくらいだ。
「さ、座りなさい」
レスタード教授は、部屋の中央に椅子を持ち出すと、レイラに勧める。
「ありがとうございます」
レイラは座った。そして、周りを油断なく見回す。
広い空間。天井が高い。部屋の窓には、内側から分厚いカーテンがしてある。
左手の壁には、大きな本棚。最上段は、レイラでも手が届かない。脚立が置いてある。本棚には紙の本が、ぎっちりと詰まっている。カオリの部屋にも、紙の本がいっぱいあった。数列家と紙の本って、何か関係あるのか? 紙製の本を手でめくりながらじゃないとできない研究とか、あるんだろうか。レイラにはわからない。
大きな部屋の右手の壁には。こちらは、最先端の機器がぎっちり。
大小のコンピューター。チカチカと赤や緑のライトが点滅している。そして、大小のディスプレイ。所狭しと置かれ、配線が絡み合っている
いかにも研究室だ。数列家の家。
カオリもそのうちこんな家に住むことになるのだろうか。そして顔に皺が刻まれるまで、数列の研究に没頭し続けるのだろうか。
「さて、お嬢さん、お話を伺おうか」
レスタード教授は、正面奥の大きな机の後ろにある椅子にどっかりと腰を据える。
レイラとはだいぶ距離を置いて、向き合っている。
変わった来客対応だな。レイラは思う。ま、数列家だ。カオリのことを考えると、多少、いや、かなりの奇人変人揃いなんだろう。
ともかく。この教授と話をしなくてはいけない。
レイラは、手短に簡潔に説明した。
自分は数列家カオリの仕事の同僚で、友人で、隣人であること。カオリが高熱を出して倒れたので、世話をしようとしたが、受け付けてもらえなかったこと、そしてカオリからレスタード教授の名前と住所を聞いたこと。
「それで相談に伺ったんです。カオリの様子、とても普通に見えなくて。同じ数列家の方なら、何かわかるかもしれないと思って」
「ふうむ」
レオタードは、髭を撫でる。
「話は、それで全部か?」
「はい」
「わかった。その、あんたの友人のカオリというのは、間違いなく数列家なのだな? しかし、その名前は知らん。数列家といっても大勢いる。宇宙のあちこちに散らばって、細々と自分の研究をしているのじゃ」
「そうですか」
「カオリというのが、わしにどういう用事があるのかもわからん」
レイラ、少し気落ちする。ここに来れば何かわかると思ったんだけど。あてが外れたみたいだ。カオリは間違いなくレスタードを知っているが、レスタードの方ではカオリを知らないという。嘘では無いようだ。
ここは空振りだったかな。
「カオリと言うのは、高熱を出しているのだな?」
レスタードが言う。
「はい。すごい熱で」
「心配いらんな。それはおそらく数列熱だ」
「数列熱?」
「そうだ。わしら数列家は、定期的に数列熱になる。いつもいろいろこんがらがったことを考えすぎているからな。脳がオーバーヒートするのだ。高熱を出す。うなされる。3 、4日すると、ケロリと治る。みんなそうだ。わしもそうなる。だからそんな心配はいらん。水を飲んで寝ていればそれでいい」
なんだ。やっぱりそうなんだ。
じゃ、安心していいのかな。
水を飲んで寝ればいい? 3、 4日で治るなら、カオリは明日にも快方するはずだ。心配することなかったんだ。
とりあえずほっとしたレイラだったが、一応言ってみる。
「あの、もしよろしかったら、一応一緒にカオリの様子を見に行ってもらえませんか?」
カオリは、譫言で、レスタードに会うのが使命だと言っていた。やはり気になるのだ。会えば何かわかるかもしれない。
「ほほう」
レスタードの目が不気味に光った。
「わしに、来い、と? それはどういうことかな?」
睨みつけてくる。
なんだ?
レイラは、ぞわっとする。
なんだか妙な空気になった。やっぱり数列家って、油断できない。何かがおかしい。




