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下着モデル潜入捜査官レイラの事件簿  作者: 茜見零
事件簿No.7 瀕死の下着モデル
70/179

第70話 数列家の男



 ()られている。


 刑事の勘、嗅覚である。はっきりと自分を刺す視線を感じる。


 どこだ?


 レイラは素早く周囲に視線を走らせる。


 のどかな郊外の住宅街。人影は無い。


 建物の間には木立ちがあり、かなり大きな樹も植っている。身を隠す場所は、いくらでもある。


 どこかに姿を隠してこっちを()ている?


 なぜだ?


 私を見張っている?


 どういうことだろう。乗ってきたエアカーは、絶対に尾行されていない。それは間違いない。今日レイラがここに来ることは、誰も知らないはずだ。


 と、すると。


 誰かが何かの目的で、ずっとレスタード教授の家を見張っていた?


 この家に何かあるのか?


 自分への視線。消えない。どこから()ているのかわからないが。


 「とにかく、中に入ろう。レスタード教授に聞けば、何かわかるかもしれない」


 レイラは、呼び鈴を押す。


 

 しばし時間が経った。反応は無い。


 「空振りだったかな」


 そういえば今、レスタード教授が家にいるとは、限らないのだ。


 レイラはもう一度、呼び鈴を押す。


 やはり反応は無い。


 ドンドンと、扉をたたく。


 「誰かいませんか? レスタード教授、大事なお話があるんです!」


 大声を出してみる。


 反応は無い。


 ダメか。そう思った時。


 「誰かの」


 中から声がした。扉が開く。



 ◇



 現れたのは、だいぶくたびれた裾の長い茶色のジャケットを着た男。


 だいぶ齢はいっているようだ。


 これは数列家だ。レイラの直感が告げた。


 いかにもややこしくて捻りに捻じ曲がった宇宙的大問題に、ひたすら生涯取り組み続け、頭をすり減らしてきたというにふさわしい風貌。


 真っ白でふさふさの髪。白い髭。顔に深く刻まれた皺。大きな鈎鼻に、鋭い目つき。


 レイラを睨みつけている。


 「何の用かな、お嬢さん」


 男は、口を開いた。不機嫌な声だ。寝ているところを叩き起こされたような態度。


 「押し売りかね。それとも元気よく大声を出して、押し込み強盗でもしようというのかね?」


 「レイラといいます」


 なるべく丁寧に、挨拶する。友人カオリのために来たのだ。


 「ええと、レスタード教授でしょうか。私の友人のことで、お話しにきました」


 男はまたじっと、レイラを見る。怖い目つきだ。


 「友人?」


 「ええ。カオリといいます。数列家です」


 「カオリ? 数列家?」


 男が鸚鵡返す。


 「知らんな。しかし、そのあんたの友人は、数列家なのかね?」


 「はい」


 「ふむ。で、あんたは数列家かね?」


 「いいえ。私はただ、カオリの友人なだけです。カオリは、今、病気で手がつけられない状況なんです。カオリが熱にうなされながら、ベルモガル街1523番地のレスタード教授に会わなければならない、そう言うので、私が代わりにきました。何かご存知でしょうか?」


 「友人の数列家が熱にうなされてわしのことを喋った。それで代わりに来た? それだけなのかね?」


 「はい」


 人を訪問する理由としては、少し弱かったかもな。レイラは思った。


 だが、男は、目を不気味に光らせると、


 「その、あんたの友人のカオリというのは、なぜ私に会う必要があるのだ? わしについて、どう言っているのだ?」


 「それが、カオリは本当に高熱にうなされていて。ただ、レスタード教授のお名前と住所しか、聞けませんでした」


 男はじっとレイラを見つめながら、思案している。


 ややあって。


 「そうか」


 かすかな笑みを洩らす。


 「それだけか。わしについては、何も聞いてない、それは間違いないのかな?」


 「はい」


 「ふむ。とりあえず、話を聞こう。わしはいかにもレスタード教授。数列家じゃ。さ、中に入りなさい。ええと、お嬢さん、レイラといったかな」


 やはり。


 この男も数列家なんだ。


 「失礼します」


 レイラは、レスタード教授に続いて、家の中に入る。



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