第67話 謎の男
レイラは、カオリの部屋を出た。
ふう、と大きく息をする。
なんだか。
ものすごく疲れた。刑事として悪党と対峙するのとは違った、でもそれ以上の圧迫感を感じた。まるでカオリの部屋全体が、数列の呪縛で鎖されているかのような。
ただ、同僚友人モデルのお見舞いに来ただけなんだけど。様子がおかし過ぎる。
カオリ。熱にうなされているだけなのか? 数列だなんだ難しいことを考えすぎで。
とにかく、今は触らせも近づかせもしない。
医者を呼んできても、これじゃダメだろう。
手に入れたキーワード。
レスタード教授。
突然出てきた名前。カオリは行かなくちゃ、会わなきゃと言っていた。
誰なんだ? 数列家の仲間? そうらしいけど。それならちょうどいい。カオリの症状を説明して、どうしたらいいか相談してみよう。それが手っ取り早い。同じ数列家なら、対処法を知っているだろう。
ベルモガル街1523。
カオリははっきりと言っていた。熱にうなされた状態でも、しっかりと記憶してる。よほど重要な相手なんだろう。
星都の郊外だ。すぐ行ける。
よし。
レイラは、寮のタワーを出る。
◇
気づいた。
黒のソフト帽に、トレンチコートの男。タワービルの入り口から少し離れたところにいる。さっきからずっと突っ立っていたのか。
こっちを見ている。じっと。
なんだ?
タワーの入り口の真ん前に立っているわけじゃないから、門衛も追っ払うことができない。タワービルの外に待ち構えて、出入りの住民をジロジロ観察。露骨な迷惑行為をしてるわけじゃないけど、なんだか気になる。
しかし。
優先順位。今はカオリだ。
レイラは、携帯端末を取り出し、エアカータクシーを呼ぼうとする。だが呼べなかった。パネルを操作する間もなく、
「ん?」
気配。いや、もう足音だ。
振り返る。
ずっとタワービルの入り口の外に立っていた男。
近づいてくる。
レイラめがけてまっすぐに。
◇
「こんにちは、お嬢さん」
トレンチコートの襟を立て、ソフト帽を目深に被った男。背はかなり高い。長身のレイラより、頭1つ上。
生き生きした青い瞳。好奇心いっぱいの視線でレイラを見つめている。豊かな黒髪がソフト帽からこぼれ、さらさらと揺れている。よく見ると、まだ若い。レイラと同じくらいの年頃か。
「なに?」
レイラは、素っ気なく、
「私、今急いでいるんです。あなたは誰かに道を聞くために、ずっとここで立っていたんですか? それなら門衛の人に訊くといいでしょう。このビルの門衛の人は、とても親切ですよ。さあ、私に用はないはずですよね。それじゃ」
そういうと、露骨に男を無視して、また携帯端末に向き合う。
男は悪戯うような口調で、
「失礼、お嬢さん。あなたに聞きたいのは、道じゃない。あなたが出てきた場所についてです」
「私が出てきた場所?」
レイラは顔を上げる。面倒な奴だな。相手にする必要なんてないんだけど。
「そこのタワービルよ。私が出てきたの見てきたでしょ」
「502号室から来ましたね?」
レイラは携帯端末を落としそうになった。顔色が変わったのが自分でもわかった。しまった。とり乱しちゃった。
タワービルの502号室。
まさしくカオリの部屋だ。
確かにそこから出てきた。で、どうやって知ったの?
男はニヤニヤとしている。この状況を楽しんでいるかのようだ。レイラの動揺を見抜いている。
なんなのこいつは!
レイラの苛々が募る。
まったく!
数列ってのに関わると、次々と予測不能なことが起きちゃうんだから!
普通の世界を歪めてしまう。
それが数列なのか。




