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下着モデル潜入捜査官レイラの事件簿  作者: 茜見零
事件簿No.7 瀕死の下着モデル
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第66話 数列家の業



 数列の熱? 数列家の業だって!?


 カオリ、確かそう言ったよね。


 レイラは、頭痛が痛くなる。


 なんだそりゃ。聞いたことがない。


 新手の病気なの?


 無口無表情なダウナー系で、それでいてアイドル男子を密かに好きな女の子らしいところもある下着モデルで数列家のカオリ。 


 この子は。


 いつもありえないくらい難しくややこしいことを考えているんだ。数列道というやつは、何十億年も続いてきたという。あれこれややこしいことを考えに考えて、捻りに捻って、かき回しにかき回して、複雑怪奇に組み立てていじり倒していると、やっぱり頭がどうかしちゃうのか。熱も出ちゃうんだ。それもとびきりの高熱が。


 ベッド上、身じろぎもしない少女の頭の中には、宇宙論とかそういう規模の難題が詰まっていて、いっぱい踊っていて、破裂しそうになっているのか? いや、宇宙論よりもっとスケールの大きな何かかも!?



 ◇



 「私は戦っているのです」


 カオリの口が、かすかに開く。


 「これは数列家の戦いなのです。ずっと長い歳月の間、続いてきたのです。宿命の戦いなのです。ああ、苦しい。頭が割れるようです。ずっとずっと、数列が頭の中を回っています。ぐるぐる回りながら、私を嘲笑(わら)っているのです。数列に全く手を出せない私のことを。ものすごい量の数列が。数列の海が、私を底まで引っ張り込もうとしているのです。冷たい数列の墓場へと。私は必死に抵抗しているのです。体を燃やしているのです。生命(いのち)を燃やしているのです。視界を遮り覆い尽くす数列の垣間に時折光が見えるのです。それだけが救いなのです。ああ、ああ、こうしてはいられない。私は行かなければいけない」


 「行かなければいけない?」


 レイラは、鸚鵡返す。この譫言、何か意味があるのか? 数列の熱。病院で何とかなるのか?


 「行くって? その、病院に行く気になってくれたの?」


 「病院。お医者さん、何もできません」


 カオリは繰り返す。


 「それは必要ありません。今の私に必要なのは、数列家の宿命に従うこと。戦わねばなりません。会わねばならないのです」


 「会う? 誰に?」


 レイラ、身を乗り出す。


 「レスタード教授」


 カオリの声は、か細いがはっきりとしていた。


 レスタート教授?


 突如出てきた名前に、レイラは戸惑う。


 「あの、その教授って、何なの? あなたの今の病気と関係あるの?」


 「数列道の病気なのです」


 カオリ、語気をやや強める。


 「うん。それはわかったから。それで、その教授って何なの?」


 「レスタード」


 カオリはまたその名を繰り返す。 


 「数列を謀り、翻弄するもの。恐ろしい相手です。しかし、私は会わなければなりません。私の使命。そうなのです。私は行きます」


 行く。


 それは無理だろう、とレイラは、


 「行くも何も。あなた、体を起こせないじゃない。体どころか、腕もあげられない様子だよ。腕というか指も。自分で起きて行くなんて無理だよ。まず体を治さなきゃ。で、なに? そのレスタードって人、あなたの数列家仲間なの? その人に会えば何とかなるの? その人がこの状況について何か知ってるの? だったら、私がその人呼んでこようか?」


 「レスタード」


 カオリは繰り返す。


 「ベルモガル街1523番地」


 「え?」


 「そこにレスタードの城があるのです。ベルモガル街1523番地」


 レイラは、素早く携帯端末(パッド)で音声メモした。


 「ベルモガル街1523番地だね。そこに、数列家の仲間のレスタード教授って人がいるのね?」


 「私は、会わなければならない。すぐにも」


 カオリは、繰り返す。高熱で赤く染まる頬。


 「わかった」


 レイラは言った。

 

 「とりあえずそこに行って、その人に会って話をしてみる。そして必要なら連れてくるから。それでいい?」



 カオリは異様な光を宿した夢見心地の瞳で、じっと天井を見つめていた。



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