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下着モデル潜入捜査官レイラの事件簿  作者: 茜見零
事件簿No.7 瀕死の下着モデル
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第65話 高熱少女



 レイラは少し下がった。


 「これでいい? 部屋からは出ていかないからね。勝手に触ったりしないから安心して。言うこと聞くから。いいでしょ?」


 ベッドに横たわるカオリ。相変わらずレイラの事は見ていない。妖しい光を湛えた瞳、天井を見ている。黙ったまま。


 すごい高熱だったな。レイラは自分の手を撫でる。こりゃ完全に頭がどうかなっている。朦朧として、譫言をいってるんだ。自分がどうなっているのか、何を言ってるのか、わかってないのかもしれない。


 こういう時、普通なら。


 レイラは考える。


 もちろんすぐに担いで病床から連れ出して、エアカータクシーを呼んで病院に連れて行く。そうだ。それしかない。


 でも。


 レイラをここから追い出すと言った時のカオリ。いつになく異様な力を声に籠めていた。


 なんなんだ?


 やっぱりただ、熱でうなされてどうかしてるんだろうけど。


 厄介なのは、カオリの数列家の能力だ。あれを暴走させたらまずい。正常な判断力を失っているときに、危険で破壊的な(パワー)を全力全開にされたら。


 レイラも、数列家だ数列道だについてよくわかっているわけではない。だか最大限の警戒が必要なことは、充分身に染みている。



 ◇



 「カオリ」


 レイラは、なるべく落ち着いた声で言った。慎重に説得してみよう。


 「あなた、自分が病気だって事務所に連絡入れたでしょ。確かに病気ね。すごい熱出てるよ」


 カオリは黙ったまま。レイラの声は聞こえているのか。


 「カオリ、病気の時いつもどうしてるの? いつも水飲んで寝てるだけなの? それで治る病気だってあるけどさ。携帯端末(パッド)で簡易診察とかした? 3日寝てて、まだそんなにすごい熱があるなら、これはやっぱり普通じゃないよ。ちゃんとお医者さんに診てもらわないと」


 病床の少女はなおも無言。身じろぎ1つしない。


 「ご飯だってちゃんと食べてる? 食べてないでしょ。水だけっていうのは良くないよ。どんどん弱っちゃう。そして頭も働かなくなる。悪循環だよ。食べ物買ってきたから。(テーブル)に置いた袋の中よ。お菓子いろいろあるから。好きなの食べて。あと、サンドイッチも買ってきたからね。卵にハムにチーズにトマト。何でもあるから。ひと口でもいいから食べて。ちょっと元気つけて、病院に行こう。モデルのみんな、あなたの元気な顔、見たがってるよ。自分で食べられないなら、私が食べさしてあげるからーー」


 「ああ」


 カオリは、うめく。か細い声。苦しそうに、


 「レイラ、あなたはとことん人を苛々させますね」



 ぐふっ、



 さすがのレイラもこれには。



 カオリはまた、黙り込んだ。


 レイラの買ってきたお見舞いの袋のほうは、見ようともしない。


 これは、ダメだ。


 話してどうかなる段階じゃないな。


 レイラはしっかりとした声で言う。


 「カオリ、あなた、今自分がどういう状況なのかわかってないのよ。私にはわかっている。あなたに必要なのは、お医者さん。絶対に病院に行かなくちゃ。ここを動くのは嫌なの? じゃあ、お医者さん連れてくるからね。親切で丁寧で、あなたの言うことをちゃんと聞いてくれるお医者さんを連れてくるから。それでいいでしょ?」


 「私の状況をわかっている? そう言いましたか?」


 カオリの唇が動く。


 「いいえ。あなたは何もわかっていません。それにお医者さん? ……どんなお医者さんにも、決して私のことはわかりません」


 か細いが、確固とした響きがある。


 瞳を異様に光らせながら、カオリは続ける。


 「私のこの熱は、この苦しみは、数列の熱、数列家の業なのです」


 「は?」


 レイラ、まじまじとカオリを見つめる。


 何を言い出すんだ?


 この子は。

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