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下着モデル潜入捜査官レイラの事件簿  作者: 茜見零
事件簿No.7 瀕死の下着モデル
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第64話 病魔に取り憑かれて



 カオリがいた。

 

 ベッドに横たわっている。


 白い寝間着(ネグリジェ)。胸元がややはだけている。平たい胸も、病的で繊細な白さだった。


 自分の部屋に入ってきたレイラを、カオリは見ようともしない。じっと天井を見ている。いつもの夢見心地な瞳。異様な光を宿している。燃えるような強い光。


 カオリはやつれていた。寝間着(ネグリジェ)の下の細い身体が、いっそう頼りなく見える。


 いつも透き通るように白いカオリの頬は、不気味に紅く染まっていた。青白い(はだ)対照(コントラスト)をなしている。小さな病魔がカオリの頬に居座り、自分の領分を誇示するために照らしているかのようだ。


 レイラは、ベッドの脇に進む。


 カオリの部屋。綺麗に片付いている。壁一面に大きな本棚があり、難しそうな本がいっぱい詰め込んである。この時代に珍しい紙の本だ。壁にポスターが貼ってある。アイドル男子キリヤ。以前、カオリはキリヤのファンだと言っていた。ここは女の子らしい。


 ベッドの脇の(テーブル)には、携帯端末(パッド)と、水のペットボトルがあった。空になったペットボトルが2本。飲みかけのものが1本。食べ物は無い。


 「もう、びっくりしたよ」


 レイラは、持参したお見舞いの品を(テーブル)に置くと、カオリの顔を覗き込む。


 「大丈夫? 心配したよ。ねえ、この三日間どうしてたの? ちゃんと食べてた? げっそりしちゃってるじゃない。寝込んで何も食べなかったら余計悪くなっちゃうよ。自分で起きれなかったら、私でも誰でも助けを呼んでくれればよかったのに。みんな力になるよ。あ、今いろいろ買ってきたからーー」


 「入っていいとは言っていません」


 「え?」


 レイラ、思わずカオリを見返す。


 カオリの唇、いつもは艶やかな唇、今はカサついている。そして微かに震えている。


 「(ドア)が開いている、と私は言いました。でも、入っていい、とは言っていません」


 か細い声で、絞り出すようにカオリが言う。


 相変わらず天井を見ている。レイラの方は見ようとはしない。瞳の焦点が合ってないように見える。


 「あのさ」


 レイラは言う。


 「あなた、病気で寝込んでるんだよね。体も起こせないの? なんで鍵もかけてないの? 危ないじゃない。酷い状況よ。病院行ってないの? 1人で強がってちゃダメ。 ちゃんと人を頼りにして」


 レイラは刑事である。危険な状態の市民の保護のためには、つい強気になる。


 かまわず近づいてカオリの額に手を当てた。


 「あっ!」


 すごい高熱だ。手が焼けるよう。

 

 「うわっ」


 思わず驚いて手を離すが、それよりも


 「離れてください」


 カオリの、か細い声。


 「え? なに?」


 「早く、私から離れるのです」


 病床少女の瞳、爛爛と光っている


 「ダメ」


 と、レイラ。きっとなる。


 「病気で倒れて危ないのに。すっごい熱出てるよ。子供じゃないんだから。おいたしたって聞いてあげないからね」


 「では」


 カオリの瞳に異様な光。


 「追い出します」


 追い出す? 完全にやつれて衰弱してぐったりしてるのに? 体も起こせそうにないのに。


 その時レイラは気づいた。


 カオリが右手に何かを握っている。


 「あ、」


 あれは。


 数列杖(シーケンススティック)だ。数列家カオリの秘密道具。


 あれで数列式を発動するんだ。振動(リズム)だ森羅万象だなんちゃら。兵器や凶器じゃないとカオリは言うけど、恐るべき威力があるのは間違いない。この前、レイラは危うく分解されるところだった。まさかカオリ、本気で? 何考えてるの? 病気でうなされて、ちょっとおかしくなってるのかも。


 カオリの瞳の光、妖しく、そして強い。


 これは少し剣呑。あまり無理なことしない方がいいかも。また分解されてはいけない。


 レイラは、ベッドから少し離れる。


 「これでいい? ちゃんと、あなたの話聞くから」


 「はい」


 か細い声のカオリ、相変わらずレイラを見てはいない。


 どうしたんだろう。


 レイラ、妙な身震いがする。


 カオリ、普通じゃない。


 いったいどんな病魔に取り憑かれているんだろう。



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