第63話 病欠モデル
カオリが事務所の仕事を欠勤した。入っている仕事に来なかったのは、初めてのことだった。
本人から連絡があった。病気とのことだった。
「ふーん。カオリも体調崩したりするんだ」
レイラは、同僚モデルのことを少し気にした。
カオリ。線が細い。華奢。病的に白い膚。いつも無口無表情で超然としてるけど、確かにすぐ折れそうな身体をしている。
「ちゃんとご飯食べてるのかな」
レイラは案じる。
2日目。
今日もカオリは病欠。
「まだ、治らないんだ」
レイラは自分のモデルの仕事をしながら、ずっとカオリのことを考えていた。
カオリは、ほとんど周囲の人間と話をしない。しかし、レイラとはなんだかんだ話をするようになっていた。最初の行き違いはあったけど。
「大丈夫かな」
心配を強めるレイラに、
「カオリのこと?」
ピンク色の派手な〝おもちゃ箱の人形〟姿のネクリが話しかけてきた。
「大丈夫よ。まだ10代だから。調子悪くて寝込むことってよくあるよ。ダイエット失敗したりしてね。すぐにケロっとして戻ってくるから。あ、レイラ、ダイエットは大敵よ。確かにプロポーション維持は必要だけど、無理しすぎないほうがいいのよ。気をつけてね」
「うん……ダイエット調整ミスとか、そういう話ならいいんだけど。あの子、ちゃんと食べてるのか心配」
「うふ、カオリと仲いいのね。どうやったら仲良くなれるの? あの子、話しかけてもまともに答えてくれないし。みんなと距離を置いちゃってるのよ。レイラだけね。ちゃんと話してるの」
「そうなんだ」
カオリと特別な関係。別にそうしようと思っているわけじゃないんだけど。
3日目。
「また、カオリが病欠!? 事務所に休みますと通信が一つ入っただけ?」
レイラは叫ぶ。
さすがに。
放っておけない。
よし。お見舞いに行こう。
レイラは事務所にカオリの住所を聞き出した。
◇
カオリの住所。
レイラと同じモデルの寮で、なんと、隣の部屋だった。今まで知らなかった。気づかなかった。寮で出くわしたことは無い。
「なんだ。隣だったんだ。さっさとお見舞いに行けばよかった。でも、あの子も一人暮らしなんだ。1人で寝込んで飲まず食わずだったら危ないよね」
事務所の仕事からの帰り、レイラは買い物。
ペットボトルのドリンクに、お菓子、サンドイッチ、それからちょっと迷って、花束も買った。お見舞いだし。これでいいかな。ま、お隣りさんなんだ。しょっちゅう見に行けばいいんだ。足りないものがあれば、また持っていけばいい。
モデルの寮。事務所のすぐ近くにある。
厳重な警備チェックのある大きなタワーだ。その中の部屋をいくつかまとめて、事務所が借り上げているのである。
寮のタワーに入る時。
入り口から少し離れた道路に、男が立っているのに気づいた。黒のトレンチコートに、ソフト帽。
こっちを見ている。妙な目つきだ。
なんだ? 下着モデルの追っかけか?
ここは、気にする様子を見せない方が良いだろう。男など視界に入らなかった。そういう態度をとったほうがいい。もちろんこのタワーは、モデルの寮だけでなく、いろんな人が住んでいて出入りがある。だから入り口の前に突っ立っている人がいたからって、モデル目当てとは限らないけど。
レイラはトレンチコートの男を無視してそのままタワーに入り、自分の部屋の隣、カオリの部屋の扉のピンポンをする。
「カオリ、レイラよ! 大丈夫? お見舞いに来たから。開けて!」
返事は無い。しばらく待った。何も起きない。
もう一度ピンポンする。
「レイラよ! 聞こえてる? 開けて!」
やはり返事は無い。
レイラの胸がざわめく。
なんだろう。1人で寝込んでいるうちに、急に心臓がどうかしたとか。それとも何も食べないでいるうちに衰弱して、すっかり力が尽き果てて声も出せない指も上がらないとか?
ダメだ。このままじゃ。
レイラはピンポンしながら扉をドンドンと叩く。
「ねえ、いるんでしょ? どうしたの?声も出せないの? 扉、破っちゃうよ!」
必死に叫ぶ。
すると。
「開いてます」
中から、か細い声がした。
レイラは、扉を開ける。鍵はかかっていなかった。
ワンルームの部屋である。
すぐに奥まで見通せた。
窓側のベッドに横たわっていうのは、カオリ。
その姿に。
レイラは息を呑んだ。




