第60話 親娘の秘密
「エスト!」
レイラは思わず駆け寄り、エストに抱きつく。
「よかった! 無事だったんだ! 心配したよ」
「レイラ?」
驚くエスト。まだ青ざめた顔をしている。突如現れた同僚モデルに驚いている。
「どうしたの? どうしてここにレイラがいるの? それにカオリも」
「もう」
レイラはエストの顔をしっかりと両手で押さえる。
「急にパーティー会場から飛び出して、そのままいなくなっちゃったじゃない。みんな心配してたんだよ。それで探しにきたの」
「そうなんだ……心配かけて、ごめん」
捜索張込尾行追跡のことは、説明しなかった。今はそういう場合ではない。
エストの様子。まだ声は震えているが、だいぶ落ち着いている。とりあえずおかしなことをしでかすことはないだろう。
ほっとするレイラ。
「ミレイヌ」
カジヒラの声。
「なぜ、エストと一緒に?」
「え?」
ミレイヌは微笑む。
「あなたが私をここへ呼んだんじゃない。ここに着いてタクシーを降りたら、ちょうどエストが走ってきたの。それで抱きとめて、とにかく話をしようって言ったの。エストが、今すぐ別荘には戻りたくないって言うので、2人で森の方へ行って少し話をしていたの。話をしたらエストがだいぶ落ち着いたので、こっちに来たのよ」
「そうか。よかった」
カジヒラも安堵の声。そして、娘へと手を伸ばす。
「さあ、もう大丈夫だようだね。みんなで家へ入ろう」
5人は、別荘に入った。
◇
別荘に入ると。
エストが言った。
「私、まだちょっと…… 1人にさせてもらっていい? いろいろ気持ちを整理したいの」
カジヒラが、エストを空いてる寝室へと案内する。広い別荘だ。いくつも部屋がある。
4人、カジヒラ、ミレイヌ、そしてレイラとカオリは居間に。
カジヒラが、手際よく紅茶を淹れて出してくれた。
ここにいていいのかな、レイラは思った。
さんざん頑張って捜索したのは、エストの身を案じての事だった。しかしエストが無事なのは、もうはっきりとわかった。事情も大体わかった。
あとは親娘の問題のようだ。
もうお暇しようか。
レイラが考えたとき。
「私とエストが何の話をしたが、知りたいでしょ」
ミレイヌが、とても自然に優雅に微笑みながら切り出した。
ミレイヌ、昔はサクラと名乗っていた女性の話。
バラバラになった親娘の絵を埋める最後の一欠片だった。
◇
「モルン、久しぶりね」
にこやかなミレイヌ。
「ホテルでお迎えしてくれた時、すぐわかった。本当にびっくりした。支配人になっていたのね。でも、お互い知らんぷりするの、とてもうまかったわね」
その昔愛し合って、そして別れた2人。今はそれぞれ別の世界で成功している。
「会えてよかった。最初に誤解を解いておかなくちゃ」
「誤解?」
と、カジヒラ。
「ええ。エストから、私、サクラがエストの実の母親だと聞いたでしょ? それは違うの」
「違う?」
カジヒラは驚く。
「そうなのか? しかし、エストは、自分の出世証明書を持っていた。電子ファイルにして携帯端末に保存していたんだ。私も見せてもらったが間違いなくエストの母親はサクラ、君だった。そして出生の日は、ちょうど君が私に子供が生まれたと連絡してくれた時だった。昔、君が僕に送ってくれた出生証明書と同じものだった。君は僕に、証明書の画像を送ったよね」
「うふふ。そうよ。でも、違うの」
遠くを見つめる眼差しのミレイヌ。
「エストの本当の母親は、私じゃない。私から飛び出して行ったあなたの最愛の人、ベシルよ」
「ベシル!?」
声を上げるカジヒラ。
「エストがベシルの娘だって!?」
2人の女性の間にいたモルン、昔のカジヒラ。
なんだかややこしくなりそうだ。
レイラは、話に耳を澄ませる。




