第59話 再会
「ある時、気づいたのです。昔のサクラが活躍していることを」
カジヒラは話す。
ファッションメディア界話題の女社長ミレイヌ。顔も、声も、間違いなくサクラだった。名前は変えていたが、特に顔を変えていたわけではなかったのだ。
昔の女の成功に驚いたカジヒラ。素直に祝福し、黙って見守ることにした。今更、顔を合わせられるわけがないのだ。ただ、ミレイヌに子供はいないとの話だった。自分の娘であるエストはどうなったんだろう。気になったが聞きに行くわけにはいかなかった。
そして今日、カジヒラが支配人を務めるホテルでのミレイヌ主催パーティーとなった。もちろん昔の関係ではなく、お客様として迎えるつもりであった。もう完全に他人なのだ。きっとミレイヌも昔のことは忘れただろう。忘れたがっているに違いない。自分は支配人としての仕事をしっかりこなそう。
だが。
ミレイヌの一行ではなく、ドン・ハルキサワ事務所のモデルの中に、形見の指輪から自分の娘を見つけてしまい、カジヒラも動転したのだった。
この別荘に来て。あれこれのことを、カジヒラは、エストにすっかり話をした。
来る途中で買った検査キットで、遺伝子チェックもした。カジヒラとエストは正真正銘の父娘だった。
◇
エストは、青ざめ、震えていた。
喜んでいる様子ではなかった。
何をどう考えていいのか、判断していいのかわからないのだ。
「私には、母も、父もいないの。だって私をいらないって捨てたんだもの」
小刻みに肩を震わせながら、エストはなん度もそう言った。引き攣った顔をしていた。
エストはずっと1人の女性に育てられてきた。その女性のことを本当の母親だと思っていた。
エストを育ててくれた女性は、去年、病気で死んだ。カジヒラの指輪をエストに残して。育ての母親の遺品を整理している時、エストは自分の出生証明書を見つけた。
衝撃を受けた。
エストを産んだ母親の顔も名前も、育ての母親、エストが実の母親と信じていた女性のものではなかった。
出生証明書に書かれていた母親の名前。サクラ。
ずっと知らなかった。
実の母親だと信じていた女性は、自分を産んだ母親ではなかったのだ。
エストの頭も、自分のいる世界も、ぐるぐると回った。どう受け止めていいのかわからなかった。
身寄りもなく施設に預けられたエストは、心を切り替えようと、ドン・ハルキサワ事務所のオーディションに応募した。そして、見事合格し下着モデルとして活躍することとなった。そして今日を迎えたのである。
◇
「エストはここでずっと落ち込んだり、急に興奮したり、不安定でした。そして私が目を離した隙に、別荘から飛び出していってしまったんです」
青ざめるカジヒラ。
なんてこった。
レイラも頭を抱える。
バラバラ離れ離れだった親娘3人が、偶然の縁で、やっと出会えた。
でも、それは幸福な再会ではなく、混乱と苦痛を呼ぶものだったというのだろうか。
実の両親に捨てられたエスト。これまでの辛い思いが一気に高ぶり、自分を抑え切れないんだ。逃げ出していった。走り出していった。目の前から。すべてから。
「いけないな」
夜の静かな森と湖のほとりの闇の中で。
レイラも焦る。そしてもう一度、思いっきり大きな声で叫ぶ。
「エストーっ!」
「ここよ」
声がした。芯のしっかりした、明るい女性の声。
2つの人影が近づいてくるのが見えた。1人は携行照明を持っている。
現れたのは。
ミレイヌ。
そして、その隣にエスト。




