第56話 湖畔の別荘地で
夜の闇から現れたレイラとカオリの2人を見て、カジヒラは驚いたようだった。携行照明をかざす。
「あなたは……宿泊のモデルの方ですか?」
さすが一流ホテルの支配人だ。パーティーの途中、抜け出したエストを一緒に探したレイラのことを、覚えていた。
「レイラです」
素直に名乗った。もう顔合わせているんだし、いいだろう。それにカジヒラの様子、どう見ても犯罪をしている姿でない。
「パーティーで行方不明になったエストを探しにここへ来たんです」
「エスト」
カジヒラは、鸚鵡返す。
「見ませんでしたか? 私もエストを探してるんです」
「え?」
レイラ、面食らう。
「えーと、エストは、支配人さんと一緒にここにきたんじゃないんですか?」
「はい。そうです。しかし、たった今、エストは家を飛び出してしまったんです。追いかけたのですが夜の闇の中で見失ってしまったんです。それで携行照明を一旦取りに帰って、今、探しているところなんです」
「何があったんです?」
訊くレイラ。カジヒラは憔悴した顔をしている。
「エストは今、不安定な状態なんです。今日、突然いろいろなことを知ってしまったのです。私がしっかりついていなければならなかったのですが」
レイラとカオリ、顔を見合わせる。
エストにやっとたどり着いた。そう思ったら、エストはそこから逃げ出した。そういうことなんだ。
「エストがエアカーとか、エアバイクとか、そういうのを使った可能性はありますか?」
レイラは、つい刑事の口調になって訊く。カジヒラはかぶりを振る。
「私の家のエアカーは車庫にあります。乗り物は、他にありません」
「わかりました、まずは、一緒に探しましょう」
あれこれの事情はさておき、レイラとカオリも携行照明を手に、エストを探して湖畔を回る。
精神状態不安定なまま夜の闇の中に飛び出した少女。
レイラ、嫌な予感がする。早まったことをしなければそれでいいんだけど。
◇
「エスト!」
「エストさーん!」
カオリもいつになく大きな声を出している。
しかし。
湖は大きく、その周りの森もさらに深かった。豊かな自然の中に、ポツンポツンと別荘が建っているのだ。
3人で携行照明を振って探し回っても、限界があった。
警察に通報して捜索を依頼する。
レイラは考える。いや、だめだ。ただ、女の子が家を飛び出した。それだけで警察が大挙出動して大捜索をしてくれるなんてことあるわけない。刑事であるレイラにそれはよくわかっていた。
3人は一旦別荘の前まで戻る。
これは、エストが自分で戻ってくるのを待つしかないのかな。レイラは、焦る。どうしよう。宇宙警察のエリート刑事でありながらあと少しのところで女の子1人守れなかったなんてことになったら。
カジヒラは、ガックリと腰を下ろし、頭を抱えている。クールな高級ホテルの支配人がこんな姿を見せるなんて。よほどの心身のダメージなのだ。
「私が悪いのです。私がつい深く考えずに口走ってしまったことでエストは混乱してしまったのです」
呻くカジヒラ。
「あの」
レイラは、訊く。
「いったいどういう事情なのでしょう? 支配人さんは、エストとどういう関係なのですか?」
情報収集。できるときにやっておこう。何かのためになるかもしれない。
「はい」
カジヒラは、力のない声で、
「お話ししましょう」




