第54話 張り込み
フロアに戻ったレイラとカオリ。
モデルたち、それに今日のパーティーの招待客たちは、みんなあちこちに固まって、ワイワイキャッキャしている。
エストの件で一時は沈んでいたドン・ハルキサワ事務所のモデルたちも、笑顔を取り戻していた。何があったかわからないし、何より、ここでは自分は自分。自分のためにここにいるのだ。夢の仕事であり戦場。出入りがとにかく多いし、トラブルもしょっちゅうある業界だ。いちいち他の子のことを考えている暇は無い。
明日も撮影の仕事だ。もう気持ちを切り換えている。仕事で星1番の超高級ホテルに泊まれるのだ。なんだかんだみんな浮きたっている。
ルイーザに、あんまりはしゃがないでね、プライベートも仕事よ、と注意されている。
華やかで賑やかな空間で。
「これからどうすればいいかな。支配人カジヒラとエストが一緒に消えた。どこかへ行った。行く先の手がかりは無し」
警察証を見せて聞き込みをして回るわけにはいかない。レイラは、休暇中で身分を秘匿している私人の立場なのだ。
「手がかり、ありますよ」
と、カオリ。
「えっ?」
この子は。刑事の私でも見落としていることを、いろいろ見つけられるの?
レイラはカオリをまじまじと見つめる。
「教えて。何もなければいいんだけど。まだそれはわからない。早く真相を確かめて安心したいの」
「真相。それは分かりませんが。そこにたどり着くのに今できることがあります」
「うん。何があるの?」
「ミレイヌさんです」
「あ」
そうだ。もう1人いた。この事件の関係者。エストがミレイヌにあらぬことを口走った。そもそもそれが始まりだったんだ。今日の豪華パーティーの主催者ミレイヌ。
「ミレイヌさんは、どう絡んでるんだろ」
レイラは思案する。
「ミレイヌとエストの間に何かトラブルがあった。で、ミレイヌが支配人カジヒラに連絡して、エストを何とかさせた? でも、エストはミレイヌに食ってかかったあと、すぐにパーティー会場を飛び出した。ミレイヌがカジヒラに連絡して、どうにかする時間なんてなかったはずよ」
「そうですね」
カオリは夢心地な瞳。
「カジヒラさんは、おそらく自分の理由があったのでしょう。エストさんをこっそり連れ出さなくてはいけない理由。でも、それはミレイヌさんと繋がっている。カジヒラさんとエストさんが動いた以上、ミレイヌさんも動くんじゃないでしょうか。今晩、ミレイヌさんを見張っていましょう。それが今、私たちにできることです」
カオリの見立て。
あくまでも1つの仮説に過ぎない。
しかし、今できる事はそれしかなさそうだ。
レイラ、さっそく刑事の能力を全開にさせて、ミレイヌの周辺について聞き出す。
ミレイヌの会社の社員に近づいて、
「ミレイヌ社長ってんどの部屋に宿泊されてるんでしょう? いや、その、いつか私も憧れの社長みたいな素敵な女性の泊まる部屋に泊まってみたいなんて思ってるんです! よろしかったら教えてください」
と、無邪気な笑顔を浮かべながら部屋を聞き出す。もちろん直接会いに行く事はできない。
部屋を確認したレイラ。ミレイヌがここをこっそり出て行くとしたら? みんなに気づかれないような裏口の非常用エレベーターを使うだろう。部屋から出口へのルートを確認する。
◇
「ここで張り込もう」
夜のホテルの裏手。
非常エレベーターの出口の1つが見える位置に、レイラとカオリは張り込む。
「空振りかもしれませんよ。あくまでも、私の推理ですから」
と、カオリ。
「ふふ、捜査に空振りなんて、つきものよ」
刑事モードのレイラ。
カオリは、じっとレイラを見つめている。
「レイラさん、本職の刑事みたいですね」
「えっ?」
慌てるレイラ。刑事の正体をバラさずに、刑事の仕事をしなければならない。
それが潜入捜査。
だけどカオリ。この子には、いろいろ見透かされているような。




