第53話 活動的なダウナー系
レイラとカオリ。
2人は非常口から、外へ出た。
ホテルの裏庭に面した窓の下には、バルコニーがあろ。
しかし部屋同士行き来できないように、仕切りの壁がある。
レイラ、当然のように、仕切りに手をかけ、乗り越えていこうとする。
「レイラさん」
カオリ、びっくりする。
「何するんですか? 見つかったらまずいですよ」
「ふふ、何でもないよ」
レイラは振り向いて言う。
「ちゃんと照明や検知器の位置は計算して動くから。まかせといて。支配人の部屋の様子を見に行って、すぐに戻ってくるから。カオリ、あなたは、ここで待っていて」
「私も連れて行ってください」
「え?」
きっぱりとした声とともに、カオリがレイラの首に抱きついてくる。カオリの青い髪がパラリとレイラの顔にかかり、甘い匂いがする。
「このまま背負って、連れて行けってこと?」
「お願いします」
なんだか強引な子だなあ。しかし、妙に強い決意を感じる。振り払っていくわけにはいかない。この子、本当にダウナー系なのか? 活動的すぎる。
「もう、じゃあ、しっかりつかまっててね」
レイラはスレンダーだが、体力筋力腕力には自信がある。宇宙警察学校で必死に鍛えたのだ。
えいっ、とカオリを背負ったままバルコニーの仕切りを乗り越えた。カオリはしっかりとレイラにしがみついている。細くて華奢で小柄なカオリ。軽い。担いで行くのには問題なかった。
そのまま2人は。
見つからないように身をかがめて窓の下を通り、また次の仕切りの壁を乗り越え進み、支配人ルームの窓の前までたどり着いた。
「私が様子を見るから。あなたは身をかがめていて」
捜査のプロであるレイラ。カオリに指示を出すと、そっと中を伺う。
窓にはレースのカーテンがしてあるだけだった。照明はついている。よく見える。
広い支配人ルーム。居間だ。立派な机にソファー。誰もいない。もちろん中が窓から見えない部屋がいくつもある。そこに人がいるかどうか、外からはわからない。
窓にも錠がしてある。
破るわけにはいかない。油断なく中に視線を走らせるレイラ。
「あっ」
声を上げた。
「見て、カオリ。椅子の背にかかっている白い肩掛け」
カオリも、中を覗き込む。
「エストさんのみたいですね」
エストはパーティーの時、黒いドレスの上から白い肩掛けをしていたのだ。
「うん。もう間違いない。やっぱりエストは支配人に連れられてここにきたんだ」
「そして、今はいません」
「どうして分かるの?」
「数列です」
カオリは、平然と言う。その手には、小さな杖が握られている。数列杖。数列家の秘密兵器。
「これを使えば、物体を貫通する振動を数列に変換し、近くの距離なら精査できるのです。この部屋の中には、人の反応はありません」
音響探知機と似たような原理か。宇宙警察の刑事であるレイラもそういうのは持っている。しかし数列道とやらで、ずいぶん高度なことができるんだな。
「パーティー会場から飛び出したエストは、支配人カジヒラと出会った。カジヒラが、エストに自分の部屋に来るようにと言った。そして2人はここで落ち合った。そして2人でどこかへ行った。これは決まり。もう間違いなしね」
とりあえずの収穫だ。レイラは、窓の外から、無人の部屋の中を丁寧に撮影する。
よし。
これをここですることは無さそうだ。
「カオリ、戻ろう」
「はい」
カオリはまた、レイラの首に抱きついてくる。少女の甘い匂い。
「ねえ、カオリ、あなたの数列道とやらで、壁の乗り越えくらいできるんじゃないの?」
「それはできません」
カオリ、やや恥ずかしそうに囁く。
「ふふ、じゃあ、しっかりつかまっててね」
レイラは来た道を戻ろうと、また、えいっとバルコニーの仕切りの壁に飛びかかる。




