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下着モデル潜入捜査官レイラの事件簿  作者: 茜見零
事件簿No.6 下着モデル密室消失事件
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第50話 数列家の出番



 「カオリ」


 レイラ、カオリにぴったりとくっついて、小声で話しかける。


 「何でしょうか」


 カオリは、いつもの夢見心地な瞳で、じっとレイラを見つめる。


 「あの、エストのことなんだけど」


 「はい」


 「ほら、急にいなくなったじゃない? どうしたんだろうって。ここに来るまでは、普通にみんなとふざけて笑ってて、おかしな様子なんてなかったのに。何か心当たりないかな?」


 「あります」


 淡々と、カオリは言う。


 「ええっ!」


 レイラは、思わずカオリの手をぎゅっと握る。


 「心当たりがある? どういうこと?」


 「はい」


 淡々とした口調、変わらない。 


 「今日、ロビーに着いたときのことです。エストさんは、隅で誰かと話していました。事務所の人は、みんな周りにいましたから。事務所以外の人と話していたんです」


 「すごい! カオリ、そんなの気づいてたんだ。で、エストが話していた相手って誰? それはわかる?」


 カオリは、かぶりを振る。


 「大きな柱の陰で話していたので、相手の顔は、見えませんでした。でも、エストさんの横に、ちらっと人影が見えました。間違いなく、誰かと話していたんです。そしてエストさんが、柱の陰からこっちに来たときには、もう真っ青になっていました」


 「そうなんだ。教えてくれて、ありがとう」


 エストが、ロビーで急に真っ青になった。それはレイラも覚えている。刑事の頭脳をフル回転させ、思案する。


 「そうすると。ロビーで誰かに出会って話したことで、エストは急に情緒不安定になった。そういうことだよね。何かびっくりすることがあったんだ。ロビーで最初から待ち合わせをしたとか、そういうわけじゃないよね。そんな大事な話があるから、このホテルへ来るまで呑気にキャッキャしてるはずないし。思いがけず、偶然ロビーで誰かと出会ったんだ。そして、それは強いショックをエストに与えた」


 「そういうことだと思います」


 エストは、誰かに何かを聞いた。それで、パーティー会場でミレイヌに、


 「自分が捨てた子が目の前に現れたのって、どんな気持ち?」


 と叫び、走り去った。 


 やはり、急に起きたことで気持ちの整理がついていなかった。そういうことだ。


 事情。それはわからない。


 もう一つの謎。

 

 密室密閉空間からの消失。


 それについてはどうか。


 「ねえ、カオリ、エストがどこへ行ったか、わからない? ほら、あなたの数列家の能力を使って。これ、ひょっとしたら事件になるかもしれない、そう思うの。私、心配してるの、エストのこと。だから早く見つけたいの。ね、今なら数列家の力、全開にしちゃっていいのよ。何とかならない?」


 「数列で人探しは、できません」

 

 「ええ? ほら、あなたの能力って、星占いみたいなものじゃないの? 森羅万象とか、星の運行とかなんとか言ってたじゃない」


 「数列道は、星占いではありません」


 「もう。人が1人、ありえない形で、忽然と消えたのよ。私、必死に探したけど、何の手がかりもないの。これは絶対に人智を越えた、宇宙論的な力が働いたのよ。そうとしか考えられない」


 「宇宙論的な力で人が消えるんですか? いったいどういう状況だったんです?」


 レイラは、エストを追いかけたときの状況を説明する。エストの駆け去った先、行き止まりの倉庫。鍵がかかっていた。一応支配人に鍵を開けてもらって中を探したけど、何も見つからない。


 「ね、ありえないでしょ、こんなの。空間をくぐり抜けた、そうとしか考えられないの。例えば宇宙の虫喰い穴(ワームホール)とかはどうかな。このホテルに突然宇宙の虫喰い穴(ワームホール)が開いて、そこにたまたまエストが吸い込まれたとか」


 「ありえません」


 カオリは、言下に否定する。 


 「人を1人吸い込むほどの宇宙の虫喰い穴(ワームホール)がこの星都に開いたら、もっと大騒ぎになります。星域の科学省がキャッチして、警報を出します。そんなに都合よく宇宙の力は出たり消えたりはしません」


 「そう? あなた、この前、私のことを100億年に1度の不可能奇跡(オーパーツ)だとか言ったじゃない。そういう特殊な現象は考えられないの?」


 「あの時言ったことについては、私も反省しています。やはり100億年に1度の出来事なんて、そんなに起きないんです」

 

 うつむいて、やや恥ずかしそうなカオリ。


 顔を上げると、


 「レイラさん、もっと常識的に考えてみましょう」


 「常識的に? それでこの(ミステリー)解決できるの?」


 「はい」 


 「本当?」 


 「そんなに難しいことではありません。警察のプロの人が捜査したら、すぐに解明できる範囲の事だと思います」


 宇宙警察のプロ刑事であるレイラは、いささか自尊心(プライド)を傷つけられた。


 「そう? そんなに簡単だとは思えないんだけど」


 「簡単です」


 カオリは、あっさりと言う。


 「……そうなんだ。じゃあ、教えて。それと、ひょっとしてあなた、エストの今の居場所もわかっているの?」


 「はい。間違いなく。レイラさんの話を聞いて、はっきりとわかりました」


 レイラは、まじまじとカオリを見つめる。冗談を言っているようには見えない。

 

 「じゃあ、行こう。エストを連れ戻しに行かなきゃ。何かある前に」


 カオリ、何か思案している様子。


 「これは、心の問題だと思います」


 夢見心地な瞳。


 「心の奥底までは、数列は届かないのです。何がいいのか悪いのかまでは分かりません。それでも、行ってみますか? エストさんのところに」


 「う……ん」


 レイラは。とにかくこの子についていくしかない。刑事の自分が見落とした何かを、この子は見つけたんだ。


 数列家。やはり謎だ。


 そしてエスト。 


 無事なのだろうか。

 

 たとえ、それがどんなものであれ、真実を見極めなければいけない。



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