第46話 ファッションメディアの風雲児
「ルイーザ、わざわざのお越しありがとう」
広いパーティー会場で。
ドン・ハルキサワ事務所の一行を出迎えたのは、ミレイヌ。ファッション情報配信局の若手女社長である。
モデルたちは、ざわめく。
「あれが有名なミレイヌ社長ね」
「すごく綺麗!」
「でも、ものすごい遣り手だって!」
「そりゃそうでしょ。あの若さで、こんな超一流ホテルで盛大なパーティー開催するんだから」
ミレイヌ。
20歳そこそこでファッション情報メディアの世界に飛び込み、自分のファッション情報配信局を立ち上げ、10数年足らずの間に宇宙でもトップクラスの配信局に育てあげた。ファッション情報界の風雲児、成功者。注目の的である。
今日は、ミレイヌの情報配信局誕生の8周年パーティーであった。
シン・トーキョー星の高級ホテルの大きな会場を貸し切りにして、ファッション業界関係者を、招待していたのである。
ドン・ハルキサワ事務所の面々、今日はお客様であった。
しかし、これも仕事。
ミレイヌのファッションメディアは、ファッション業界、下着ファッション業界に大きな影響力があった。せっかくパーティーに招待されたのだ。売り込み食い込みにここぞとばかり、必死にならねばならない。
宇宙中から集まった大勢のファッション業界関係者の中で、ルイーザは、ピリピリしていた。
「すっごいパーティーだね」
レイラは、油断なく周囲に視線を配る。ドン・ハルキサワ事務所のために用意された卓に、みんな、集まっていた。
大きな会場いっぱいに、しっかり着飾ったファッション業界の面々。かなりな壮観である。
あまりにも、キラキラがいっぱいで。
「私、今日の私服、結構頑張ってきたんだけどな。でも、とてもみんなにかなわないや」
レイラは、率直に感想を言う。潜入捜査中の刑事、きっちりモデルになりきらなければならない。いろいろ努力している。だからモデルらしい私服もそれなりに自信があったんだけど。
ここに来ると、なんだか次元が違いすぎる。完全に埋もれちゃう。
「そんなことないよ、レイラ、十分目立ってるから」
声をかけてきたのは、同僚モデルのネクリ。事務所の先輩であるが、何かとレイラのことを気にかけてくれて、仲良くしている。
「そうかな……」
ここで目立つなんて、ちょっと考えられない。しかしネクリは、うふふ、と笑って、
「もう、レイラ、そんなんじゃダメ。モデルなんだから。ここで1番目立っているのは自分! 1番綺麗なのは、自分! そう意識すればいいの。そういうこと。自分に自信がなかったら、誰もあなたのことを、見てくれないよ」
「うん。ありがとう」
なるほど。ここはひとつがんばるか、とレイラ。
自分が1番! 自分が1番綺麗! と思ってみる……いや、それ、無理……なんだかやっぱり自信がない。恥ずかしい。
まだまだ、プロのモデルにはなりきれないレイラであった。
ふと見ると。
カオリ。
ダウナー系美少女下着モデル。数列家……らしい。今日の私服は。いつもの鮮やかな花柄のワンピース。
マイペースだな。いつもと同じ夢見心地の瞳をしている。
でも、病的に見える白い膚が、この明るいキラキラ空間で、むしろ映えているような。
おしゃれを意識しているのかいないのかわからないけれど。
意外と手ごわく計算してる子なのかも。
◇
パーティーが始まった。
なごやかに、賑やかに進行していく。
「皆さん、楽しんでらっしゃいますか」
今日のパーティーの女王、ミレイヌがドン・ハルキサワ事務所の卓に現れた。
会場のあちこちを、挨拶して回っているのだ。モデルたちも立ち上がってミレイヌを迎える。
「それは、もう」
と、ルイーザ。この如才ない女性は、会場のファッション界の大物を虎視眈々と狙って挨拶に行き、売り込んだり話したりしていたのだが、ミレイヌがこっちへ来るの見逃さず、すかさず卓に戻ってきたのだ。全てにおいてそつがない。レイラは、感心している。
「こんな素敵なパーティー、滅多にありませんからね」
「まあ」
ミレイヌの大輪の花のような笑顔。
「お上手ですね、ルイーザさん。でも、今日はドン・ハルキサワ先生はお見えでないんですね。残念です。この星で1番会いたい方なのに」
ルイーザ、ピキっとなる。事務所のトップはドン・ハルキサワ。確かに本来なら、パーティーにドン・ハルキサワが来るのが当然だ。しかしドン・ハルキサワは今、星の啓示が降ってきたとかで新作制作にずっと取り掛かり、籠り切りなのであった。
「ドンは、一旦新作制作の仕事に入ると、もう1歩も、部屋から出てこなくなっちゃうんです。あ、でも、次の新作、きっとミレイヌさんも気に入って頂けますわ。ご期待くださいね。ドンはいつも、ミレイヌさんの審美眼を高く買っています。新作発表の連絡は、真っ先にいたしますわ」
「うふふ、楽しみね」
と、ミレイヌ。
ルイーザも、やがてはファッション界の総合プロデューサーの地位を狙っているのだ。
ルイーザとミレイヌ。業界の頂点を目指す2人の女性。綺麗とか、もうそういう次元を飛び越えている。野心と欲望、夢と自信がバチバチ火花を散らしている。
そこへ。
すっ、と。
ミレイヌの前に、誰かが立った。
エストだ。




