第45話 不吉な影
シン・トーキョー星で、1番の超高級ホテル。
宇宙一と評判の下着ファッションデザイナー、ドン・ハルキサワ事務所の専属モデルたち、スタッフたちは、ロビーに集まっていた。
下着モデルの子。みんな若い。10代の少女が多い。豪奢でキラキラしたホテルのロビーで、みんなワイワイキャッキャしている。もちろん今は服をしっかり着ているが、華やかな一団。ホテル客の注目の的となっている。
今日はファッション業界のパーティー。そしてホテルに一泊して、明日は撮影仕事なのだ。
みんな、見られるのには慣れている。ここぞとばかり、むしろ大得意になって思い思いにポージングしたり、跳ね回ったりする。
「こらーっ! 騒がない! 今日は仕事。遊びに来てるんじゃないのよ!」
事務所の引率係は、自身もトップモデルであるルイーザ。ドン・ハルキサワの信頼厚い1番弟子デザイナーでもあり、事務所を仕切るNo.2副社長だ。知的で聡明な女性。頭の回転が速い。
「ドン・ハルキサワ事務所の皆様、今日はようこそおいでくださいました」
長身スーツの男が、ルイーザに近づき、一行に挨拶する。
「当ホテルの支配人カジヒラと申します。どうぞ、お見知りおきを」
ルイーザは、にっこり。
「申し訳ありません。うちのモデルの子たち、騒いでばかりで」
ホテルの支配人カジヒラは、この上なく完璧でエレガントな微笑みを浮かべる。
「いえいえ、皆さまのご利用、本当に光栄に存じます。ホテルを挙げて歓迎いたします。是非、当ホテルをお楽しみ下さい」
完璧な角度としぐさのお辞儀。
ルイーザは、1つうなずいて、
「支配人さん、ありがとうございます。さ、みんな、これから会場に行くからね。いい、わかってるわね。会場に入ってからじゃなくて、入る前から、もうモデルの仕事は始まってるんだからね! これは、戦いなんだから! ビシっと意識してね!」
「は〜い」
ルイーザの号令に、モデルたち、楽しそうにぞろぞろとついていく。まるで先生に引率される、女学生だ。ウキウキが止まらない。
おや?
レイラは、気づいた。
誰かが駆けてくる。
エストだ。
事務所の同僚モデルだ。確か17歳。黒いロングヘアに、黒い瞳。少し痩せ気味だが、独特の風情のある子だ。
いつも明るく、屈託のない笑顔の子なんだけど。
「ごめんなさい……化粧室で、メイクを直していたら、遅れちゃって」
ふうふうと、息をつくエスト。
レイラ、驚く。エストの顔、真っ青だ。細い身体を、小刻みにふるわせている。その黒い瞳。妙にギラギラとしている。どこかおぼつかない視線。
どうしたんだろう。
「エスト、どうしたの? 調子悪いの?」
今、ホテルに到着した時は、元気いっぱいで、みんなとふざけてたんだけど。
「あ、あの」
エスト、目を伏せる。
「実は、さっき急にお腹の調子が悪くなって、それで化粧室に」
「そうなんだ」
レイラは、エストの手をそっと握る。
「大丈夫、無理しちゃだめだよ」
「ありがとう、大丈夫だから」
エストは青ざめた顔のまま、きっとした表情になる。
「私、行かなくちゃいけないの。今日の仕事は。絶対に」
なんだろう。
レイラは、下着ファッション事務所に潜入捜査中の刑事である。
常に、事務所のみんなのことには目を配っている。
エストの様子がおかしい。こんなふうになるの、初めて見た。
悲愴な、何が強い決意を秘めたような瞳をしている。
ホテルに着いたら急にこうなった。本当にお腹の調子が悪くなっただけ? 何が起きたんだろう。
ルイーザを先頭に、モデルたち、事務所のスタッフたちは、大きなエレベーターへ吸い込まれていった。




