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下着モデル潜入捜査官レイラの事件簿  作者: 茜見零
事件簿No.5 氷点下の下着モデル
43/181

第43話 氷海の鮫


 

 「きゃああああっ!」


 レイラは悲鳴を上げる。


 自分たちの乗った小さな氷山は、どんどん海に流されていく。


 向こうの氷原に見えるモデル事務所の撮影隊。もう小さくなっている。


 「なんで流されるの? しっかり安定した氷原の上じゃなかったの?」


 敏腕エリート刑事のレイラも、突如降って湧いたサバイバル状態に、混乱気味。


 「大地を蔽う氷床の縁が、海にせり出していたんです。その氷のプレートは思ったより薄かったようです。だから、振動で簡単に割れて、流されたんです」


 カオリは落ち着いている。いつもの夢見心地な表情を変えない。


 「それって……で、どうなるのかな。私たちの塗った温油(ホットオイル)、確か効き目は30分だよね。もう塗ってから10分以上経っちゃったけど。効き目が切れたら、どうなるんだろう」


 「氷点下でこの姿ですから」


 カオリは、ブラジャーとショーツ、尻尾にミュールだけの姿を示して、


 「20分、いや、10分が限界だと思います」


 「うわあっ!」


 時間切れ(タイムアウト)まで、そんなにない。ものすごく現実的のリミット。


 「どうすればいいんだろう」


 レイラが撮影用下着の中に仕込んだあれこれの刑事の秘密道具も、この場では役に立たない。


 「救援を待ちましょう」


 と、カオリ。何でもないという顔をしている。 


 「事務所の人が、エアバスで、救助に来てくれるはずです」


 「そっか。すぐ来てくれるかな」


 「時間はかかるでしょうね」


 カオリ、また、平然と。 


 「今のプラズマ逆流放射直撃で、空の電磁場が不安定になっています。すぐにエアバスを飛ばすことができないでしょう。空の状態が安定するまで、飛べません。どのくらい時間がかかるか、それは私にもわかりません」


 「なにそれ! もう完全に終わりじゃない!」


 時間切れ(タイムアウト)。氷の死神が、すぐ近くで、おいでおいでをしている。


 「いやーっ!」


 レイラはカオリを抱きしめる。まだ温油(ホットオイル)の効果で体はポカポカとしているが、寒気がする。体の芯まで震える。


 このまま氷海の上で凍死だなんて!


 「あのーー」


 カオリが、何かいいかけた。


 その時。



 ドン、 ドン、 



 と、小氷山が、揺れる。


 「今度は、なに?」


 と、レイラ。どんな悪党相手にも決して怯まない宇宙警察の凄腕刑事も、大自然の(トラップ)には、すっかり打ちのめされ恐怖ししていた。



 ドン、 ドン、



 不気味な、ぶつかる音。その度に揺れる。小氷山に、水面下から何かがぶつかってきているようだ。


 「な、なによ」


 レイラ、青ざめる。



 バシャアッ!



 突然、ものすごい水しぶきが上がった。


 そして。


 跳ね上がった。 


 海から。


 巨大な魚。レイラのすぐ目の前を。


 なんなの、このサイズ。でかい。大きすぎる。


 魚? 小型のエアカーくらいの大きさ。


 魚というより、もはや魚竜?


 海面から大きな水しぶきを立てて、これ見よがしに宙に跳ねた魚竜。頭が巨大だ。全身の3分の1が頭。大きな丸い不気味な目で、レイラをにらむ。

 


 ジャッパーン!



 また、派手な水しぶきを上げて、海に飛び込んだ。


 レイラは、へたり込んだ。しっかりとカオリを抱きしめたまま。


 「なんなの? あれ」



 ドン、 ドン、



 まただ。浮かぶ小氷山が大きく揺れる。


 「あ、ひょっとして」


 レイラは、気づいた。


 「これ、何かがぶつかって揺れてるんだよね。今のでっかい頭の魚竜が、海の下からぶつかってきてるってことかな?」


 「はい、そうだと思います」


 カオリが言った。


 「あれは、頭突き鮫(ヘッドバットシャーク)です。攻撃性凶暴性を高める特殊進化に人工合成をした巨大鮫です。人間を攻撃する性質があります。小型の船や筏など、人間が乗っているものを見つけ、海中から頭突き(ヘッドバット)で体当たりして壊し、海に投げ出された人間を、頑丈な顎と牙で噛み砕くのです」


 「なにそれ。なんでそんなものを開発したの? 危ないじゃない! 変なの開発しちゃったとしても、すぐ駆除するべきなんじゃないの?」


 「レジャー狩猟(ハンティング)用なのです。狩人(ハンター)というのは、本当に危険な敵じゃないと、気分が高揚しないんだそうです。だから、わざと凶暴で攻撃的な獣を開発して放しているんです。この海に乗り出す人は、厳重な装備をして行くので、ほとんど事故は起きません」


 「えええっ!」


 レイラ、悲痛な叫び。


 「今、私たち、下着だけで漂流してるんだけど。装備も何もなしで。狩猟(ハンティング)なんて無理。そんな危険な海だったの? ありえないよ! このままこの氷山がぶっ壊されて海に投げ出されたら、頭突き鮫(ヘッドバットシャーク)に、氷の海。もう、100%助からないじゃない!」


 目の前が真っ暗になるレイラ。



 ドン、 ドン、



 冷たく、容赦のない振動。


 浮かぶ小氷山が大きく揺れる。



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