第39話 分解される?
えええっ!
そんなバカな。
レイラの周りで、数字と記号が、踊り、跳ね、ぐるぐると回っている。
なんだか眩暈がしてくる。
動けない。
必死に体を動かそうとしても。
手も。
足も。
目の前のカオリ。
小さな杖、立体映像映写器を握っている。
あそこから、数字と記号が飛びだしてくるんだ。
で、なんで。
数字と記号の映像を見ると、身体が動かなくなっちゃうの? 数列にそんな力があるの? 刑事として様々な戦闘法を学んだレイラだったが、こんなのは初めてだ。
カオリが、口を開いた。
「これは、数列家の宿命なのです」
夢見心地の瞳。何を見ているんだろう。レイラを見ているのではない。遠い彼方の宇宙を見ているような。
そんな儚げなまなざし。
「数列家は、50億年の間、数列を究め、森羅万象、星々の神秘を解き明かしてきました。積み上げてきた歴史、とても重いのです。私たちは、宇宙そのものを背負い、宇宙そのものと同化しているのです。数列、それは、宇宙の命の術式」
なんだ? また何か語り出した。とにかく、私を動けるようにしてもらえない? なんで人を金縛りにするの? やめて!
焦るレイラ、もちろん声は出せない。カオリの声が響く。
「それはまだまだ未完成なのです。代々の数列家が取り組んだ宇宙数列の解法。術式の読み取り。宇宙の奥底は、果てしなく広く、深いのです」
うん。それはそうだろう。レイラも、そう思う。
「しかし、あなたは」
カオリ、レイラを見据えている。
「あっさりと、数列家歴代の限界を超えました」
え?
ああ。そうか、私が特殊数列なんちゃらを解読したと、思っているんだ。絶対に不可能だということを。いや、だから、それはまったくの偶然で。ちゃんと説明すればわかてもらえるんだけど! 解読なんかしてないから!
もがくレイラ。ダメだ。身体ピクリともしない。嘲笑うように、数字と記号は回る。ぐるぐると。
「あなたは」
カオリ、重々しく告げる。
「この世界の存在としては、バグ。100億年先から降ってきた不可能奇跡なのです」
不可能奇跡! すごい話になってるな!
「だから、あなたを確保しなければならないのです。あなたは、宇宙の理法を乱している。これ以上、暴走させてはならないのです。おお、宇宙は、森羅万象は、何という気まぐれを起こすのでしょう。しかし、あなたを捕らえるのもまた、私の定められた宿命なのでしょう。幸い禁縛術式の数列式が、通用しました。あなたを確保しました。後は、確実にあなたを数列に封じ込め、100億年の不可能奇跡の究明をするのです。あなたを、分解します。分解術式の数列式を発動します」
分解!
レイラ、総毛立つ。
もう、なにを言ってるの!
私は分解するの?
私が分解されちゃうの? 数列で人を縛ったり、分解したり、そんなことするの? できるの?
もうメチャクチャだ!
分解とか、ダメ!
悲鳴をあげたいが、やはり声は出せない。
だが。
その時気づいた。
身体を押さえつける圧力が、ほんの少しだけ弱まっている。
カオリ。手の杖をいじっている。禁縛から分解へ。術式変更の操作をしようとしているのか?
これが最後のチャンス、らしい。とにかく分解されてはいけない。
レイラは、精一杯の力で、手を動かす。
お、動いた!
今だ!
ブラジャーの内側に仕込んだ刑事の秘密兵器に手を伸ばし取り出し、スイッチを押す。
一面、真っ白になった。
数字も記号も見えない。
閃光だ。強烈な光。警備をすり抜けられる、秘密兵器の1つ。シンプルだが、いざというときの切り札になる。
閃光の白い世界。
レイラは、体が自由に動くのを確認した。カオリの小道具。視覚兵器だったんだ。数字と記号の絵のリズムの作用で、脳だが感覚器官だか中枢神経だかを狂わせて、麻痺させたんだ。
視覚兵器なら。閃光を焚いて立体映像を消せば無効化できるんだ。やってみれば、なんて事は無い。
白い閃光の中。
何も見えはしないが、カオリの位置はわかる。
レイラ、刑事の本能と磨き上げた技倆を全開にする。
落ち着いて、素早く手を伸ばし、カオリの両腕をつかんだ。
「捕まえた。確保」
やったぜ。
宇宙警察の刑事をなめるなよ。
森羅万象だか宇宙の理法だか数列術式だか知らないけど、視覚兵器なんてオモチャで、やられるわけにはいかない!
分解なんてされるものか!
大逆転である。




