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下着モデル潜入捜査官レイラの事件簿  作者: 茜見零
事件簿No.4 数列家の下着モデル
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第37話 数列式の解答



 カオリ。


 解読不能(ミステリアス)な瞳のまま。


 やはり、来た?


 レイラは、カオリの言葉を内心反芻する。


 やはり、とは?


 カオリは、レイラがここに来ることを、予め知っていて、待っていた。そういうこと?


 まさか。


 どう考えても。それはありえない。


 この子は、予知能力の持ち主なのか?


 レイラが、ここに入ったのは、まだ調べていない資材室の鍵が開いていたから、みんながいないときにこっそり忍び込んで、しっかり捜査しよう、そう思っただけなんだけど。


 カオリは、レイラを待ち受けていた。ずっと、ここに隠れて。


 どういうこと?


 やや、混乱気味のレイラ。


 カオリは、お構いなしに、続ける。


 「あなたは、私のメッセージを読めた、そういうことですね?」


 「え?」


 カオリのメッセージ? だって? レイラは、必死に考えるが、よくわからない。


 ダウナー系モデルの、淡々とした声は続く。


 「本当に驚きました。震えました。私の特殊数列式を、一瞬で記憶し、解読することができる人がいるなんて。これは絶対にありえないことなのです。しかし現実にあったのです。私が体験していたのです。他の人から聞いた話ならば、絶対に信じません。でも、この目で見たのですから、現にあなたが今、私の目の前にいるのですから、信じないわけにはいかないのです」


 「え……あの、カオリ、どういうことかな?」


 うわ、まずい。


 カオリがまたチンプンカンプンモードになってる! 別次元の数列世界へ!


 何を言っているんだ?


 特殊数列式、って言った?


 なんだそりゃ? 一瞬で記憶? 解読? 私が?


 この子は何か勘違いをしている。


 「もう、隠せません。すべては明らかなのです」


 カオリの静かな、そして疑いを挟むことを許さない預言者の声。


 「レイラさん、あなたは私が落とした数列式のメモを拾いましたね。私はそれをすぐ取り返しました。しかし、あなたはメモを記憶していた。一瞬で、あの数列式を。そして、解読した」


 あ。 


 昨日のことか。


 レイラは、思い出す。メモを拾った。数字の羅列が書いてあった。でも、一瞬で記憶したわけじゃない。撮影(スキャン)したんだ。なるほど、ブラジャーの内側に、マイクロカメラを押し込んでいるとは、さすがにカオリも気づかなかったんだ。当然だけど。


 で、数列式を解読した? 


 なんでそういう話になるの? 解読解析しようとした事はしたんだけど、結局はできなかった。


 「あなたが読んだ通り」


 カオリは、続ける。


 「あれは、キリヤ宛のファンメールの下書きでした。私にしか読めないはずの特殊数列式で書いたのです。スーパーコンピューターを使っても、解読不能なはずだったのです。しかし、あなたは易々と解読し、私に誇らしげにアピールしましたね」


 え?


 さらによくわからなくなるレイラ。


 キリヤ?

 

 誰だそれ。


 あ。


 その時、気付いた。


 そうだ。キリヤ。人気アイドル映画『君に首ったけ』主演のアイドル男子だ。


 うーんと、つまり。


 カオリは、アイドル男子キリヤへのファンメールを書こうとした。要するに、キリヤのファンなんだ。なんだ。妙に不思議な子だと思ってたけど、やっぱり普通の女の子なんだ。で、ファンメールの下書きは、他人に見られても大丈夫なように、自分にしか読めない特殊数列式とやらで書いた。それをたまたま見た私が、今日の昼休みに喫茶店(カフェ)で、カオリに『君に首ったけ』の話題を持ち出した。


 あの時。カオリは、異様にうろたえ、手にしたコーヒーカップを落とした。


 そっか。


 私はただ単に、女子トークしなきゃと、人気アイドル映画の話題をしただけなんだけど、それを、カオリはそれを、私がメモの数列式を解読したぞとアピールした、そう受け止めたんだ。


 なるほど。


 単なる偶然の積み重ねで。すごい結論を出しちゃったんだ。この子は。


 数列家だっけ。ややこしい数列といつも格闘してると、こういう風になっちゃうんだな。


 事情がわかって、やや拍子抜けしたレイラ。


 しかし。


 カオリには、レイラの気持ちは全く通じていない。


 数列家の少女。なおも、宇宙の神秘を告げる預言者の声で、続ける。


 「私は驚きました。本当にありえないことが起きたのです。数列道50億年の歴史がひっくり返ったのです。どうしても信じることができず、あなたをもう一度試すことにしました。ロッカールームでもう一度、あなたに特殊数列式を見てもらったのです」


 うん。


 ロッカールームで見た数字の立体映像(ホログラム)。やっぱりカオリの仕業だったんだ。あれは一応撮影(スキャン)しただけで、別に解読も解析も何もしていないんだけど。


 「信じられません、本当に」


 カオリのまなざし、微動だにせず。


 「あなたは、また私の挑戦を、やすやすと突破したのです」


 「は?」


 またまた混乱するレイラ。 


 挑戦を突破? いったい何を言ってるんだ? 今度こそ全くわけわかんないんだけど。


 「あの数列式は、さらにハイレベルな特殊数列式でした。どんなスーパーコンピューターでも絶対に解析不能な。そして、そこに、今日の仕事の後、第2撮影室の奥の資材室で待つ。鍵は開けておくから、必ず来てください、そう書いたのです。あなたは、果たしてここに来ました。解読できた、そういうことなのですね」


 

 うぎゃあっ!



 レイラ、やっとすべての事情が飲み込めた。


 ジグソーパズルのピースが、ピタっと嵌まる。


 そういうことか。


 うーん、またも、偶然の偶然。カオリは私にメッセージを送って、ここで待っていた。解読できるかどうか、試すために。


 私はただ、鍵が開いてるの見つけたから調べに来ただけなんだけど。


 すべては、この子の勘違い。


 えらくこんがらかった形で、振り回されちゃった。


 よし。いい加減、誤解を解こう。


 私はここへ来た理由。適当に言っておこう。特殊数列式とやらを解読したとかじゃない、それ以外の理由だって。


 「あの、カオリ」


 やっと口を開いた。


 だが。 


 もう、カオリには、レイラの言葉など届いていなかった。


 「数列家の名にかけて」


 毅然たる、重々しい声が響く。


 「あなたを、確保します」



 え? 


 と、レイラ。


 なに?


 カオリ、今、なんて言った?


 確保? 


 レイラは刑事だ。刑事が標的(ターゲット)をしっかり取り押さえることを、確保という。


 しかし。 


 カオリが、私を確保する?


 なんで? それってどういうこと?


 何をするつもりなの?



 カオリの夢心地の瞳。何も語らない。


 何かものすごく。


 危険なものを感じた。

 


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