第36話 数列の罠
休憩時間を終えて。
モデル事務所に戻ったレイラ。
さっそく着替えをする。ロッカールームに、1人だ。
「あれ、なんだ?」
急に。
目の前に。
数字が浮かんだ。
まただ。
また、0と1の数字の羅列。
今度は紙のメモじゃなくて、空中に、数字が浮いている。
立体映像か? また二進法? 呆気にとられるレイラ。
数字の羅列は、数秒で、消えた。
なんだこりゃ。
何かのメッセージ?
一応、ブラジャーの内側に仕込んだマイクロカメラで撮影はした。宙に浮いた立体映像なので、ちゃんと撮影できてるかはわからないけど。
寮に戻ったら、一応解析してみよう。
それにしても誰が?
いや。
カオリしか考えられない。カオリが、映写装置をどこかに仕掛けて、立体映像を映し出した。そうなんだろうけど。
ダウナー系モデルで数列家のカオリ。
何がしたいんだ?
いったい、私に何のメッセージなんだろう。
◇
明るく賑やかにキャッキャしながら、今日もモデルの仕事を終える。キラキラ世界。レイラもすっかり馴染んでいる。ウォーキングも、ポージングも、着こなしも、だいぶ上達したように思える。
潜入捜査のついでに、女子力アップだ!
いや、そういうのが目的じゃないんだけど……
今日も油断なく周囲に目を光せ、みなの話に聞き耳を立てている。
ナミエ失踪の手がかりなりそうな情報は、ない。
そろそろ、事務所が閉まる時間。
モデルたちや、スタッフたちは、みな、お疲れ様でした、また、といって、帰って行く。
レイラは、わざとぐずぐずしていた。
事務所に1人で残る。捜査だ。
誰にも見られずに。
今日は、目をつけておいた場所があるんだ。
第二撮影室の奥の、資材室。
普段は鍵がかかっている。当たり前と言えば、当たり前である。
モデルが自由に出入りできる場所ではない。
だから、何か秘密があるというわけでもないだろうけど、まだ見たことのない場所だ。一応調べてみなければならない。
今日。
目的の資材室。鍵がかかっていない。レイラは目敏く見つけていた。鍵を掛け忘れたようだ。みんなが帰った後に入って、ゆっくり調べてみよう。どこにどんな手がかりが転がっているか、わかったものではないのだ。捜査に予断は禁物。このファッション事務所自体が、事件現場なのだ。現場100回。徹底的に捜査しなければならない。
モデルたち、デザイナー、事務所のスタッフの賑やかな声が遠ざかっていく。用事があるフリをして残っていたレイラ。
誰もいなくなった。よし。行くぞ。
レイラ。敏腕刑事の足取りで、第2撮影室へ。そしてその奥、資材室の扉を開け、素早く入るり、扉を閉める。
ん?
資材室。大きな棚が並んでいる。あれこれの器具道具が、詰め込まれ、置かれている。その間の狭い通路。
その奥に。
人の気配。
誰だ?
レイラは、警戒モード。まだ事務所に誰か残っていたのか?
ガサゴソ、音がする。すぐ、近く。
資材室の棚の陰から現れたのは。
「カオリ」
レイラは、拍子抜けした。
目の前に現れた同僚モデル。
◇
それは、まさしくカオリだった。
仕事の下着姿である。ブルーのブラジャーにショーツ。お尻に仔鹿の尻尾。
レイラは、白のブラジャーにショーツ。ペルシャ猫の尻尾。
資材室の狭い空間で、見つめ合う2人のモデル少女。
カオリは、いつもの夢見心地の瞳。
「どうしたの? カオリ、ここで何か探し物してたの?」
レイラは、とりあえず、普通に声をかける。
いつ、入ったんだ?
この資材室の鍵が開いているのを見つけてから、レイラはここの出入りに気を配っていた。カオリが入ったのは見ていない。そうすると、だいぶ前に入って、ずっとここにいたということになる。
ファッション事務所の資材室で、モデルがいったい何を?
まさか1人でずっと隠れんぼをしていたわけではあるまい
ここには、いろいろな資料や、メイクの小物に衣裳、各種大道具小道具、演出用の飾りとかが置いてあるけど。
もっと自分に似合う尻尾がないか、探していたとか?
「やはり、来たのですね」
カオリが、口を開く。




