第34話 謎の数列
レイラは、ドン・ハルキサワ事務所のロッカールームにいた。今日も出勤である。なんだかんだモデルの生活も忙しい。まだ非公表だが、事務所期待の秘密兵器、シンデレラガールとして売り出される予定らしい。
自分の鞄をロッカーにしまう。仕事用の下着に着替える。下着の仕事もだいぶ慣れた。
仕事の時は、もう、自分が下着姿だとは、意識していない。
自分の立場になりきること。それが潜入捜査の第一歩だ。
今は、ロッカールームにレイラただ1人。
よし。
今日もモデルの、そして潜入捜査刑事の戦場である、みんなのいる大部屋に行こう。情報収集しなくちゃ。
ん?
床に、何か落ちている。紙だ。拾い上げる。
ペンで何か書いてある。
『0010100011011011……』
数字。ただ、0と1が、ひたすら並んでいる。
なんだ?
その時。
「それ、私のです!」
ロッカールームに駆け込んできたのは、カオリ。同僚のモデルだ。
カオリは、いつもの夢見心地な表情のままだが、珍しく焦っている。いや、焦っているカオリを見たのは初めてだ。
カオリは、レイラの手から、数字を羅列した紙片をひったくるように奪うと、それをぎゅっと握りしめ、
「失礼しました」
ペコリと頭を下げ、ロッカールームを出ていった。
なんだ。
レイラは、しばし呆然。
カオリ。ダウナー系モデル。無口で、人と関わらない。喜怒哀楽の表情を見せない。いつも、夢見心地の瞳。誰も視界に入っていないかのような。
昨日、レイラは初めてカオリと話したのだ。数列家だと言っていた。数列家というのがいったい何なのか、レイラにはまだ、いまいちよくわからないけど。
なるほど。
数字の羅列。あれは、数列家のカオリが落としたものなんだ。
数列家が数字の羅列と格闘していても、何の不思議もない。
でも。
レイラは、刑事である。それも潜入捜査中の。
なんであれ、情報は拾う。何が手がかりになるか、わからないのである。どんな所も、手抜きはしない。
レイラは、ブラジャーの内側に仕込んでいたマイクロカメラで、紙片を撮影していたのだ。発見した文書はすぐに撮影。それが、刑事の鉄則である。
謎の数字の羅列。
カオリにとっては大事なもののようだった。一応解析してみなくちゃ。
無口無表情のダウナー系少女が必死になる理由。
探れば、そこから何か出てくるかもしれない。
◇
事務所での仕事を終え、モデルの寮に帰ったレイラ。
さっそく、紙片の数字の解析に取り掛かる。
撮影した数字の羅列を、 大型端末の画面に写し出し、念のため、印刷もする。
最初に見た通り、0と1の羅列である。
なんだろう、これは。
二進法というやつであろうか? 確か、コンピューターのプログラミングでは二進法で打ち込むんだ。これをちゃんとした言語として読める人もいるんだ。
カオリは、かなり必死になっていた。重要なものには違いないだろう。
数列家のカオリ。
普段のメモも、二進法でしているのだろうか。
レイラは、カオリの数字の羅列を、解析アプリにかけてみる。
だが。
解析はできなかった。普通の二進法ではないらしい。
暗号解析も行ってみるが、何もわからない。意味をなさない0と1の羅列。そういう結論だ。
宇宙警察機構の暗号解析局に依頼すれば、ひょっとしたら何かわかるかもしれない。あそこは宇宙最高クラスの暗号解析能力があるのだ。
しかし。
レイラの潜入捜査は、公式の任務ではない。休暇をとって、勝手にやっている捜査だ。事件の証拠かどうかもわからないのに、暗号解析局とか大げさなことはできない。
結局。
レイラが数字とにらめっこしても、何もわかるはずがなく。
これはこれで終りにしよう。数字の羅列を、ファイリングした。
カオリの数字メモ。なんだか取り返すのに必死だったけど。
誰かに書いたラブレターとか、好きなアイドルへ送るファンメールの下書きとか、きっとそういうのだろう。数列家だから、二進法で書いた。それだけのことだろう。
カオリもちょっと変わっているとは言え、キラキラした下着モデルの世界に憧れて飛び込んできた女の子だ。そういうものだろう。




