第33話 数列家少女の夢
いつも無口なダウナー少女が、いきなりいっぱいしゃべった!
しかも、わけのわからんことを! 顔も近づけすぎだし!
なんだって?
レイラは必死に考える。
人智で数がどうとか?
ええと、それって、
「うーんと、つまり……あの、コンピューターを使わないで、あれこれの計算をする、そういうこと?」
「はい。そうです」
カオリは、コクリとうなずいた。
「なるほど……コンピューターも、電子機器も、一切使わないで、暗算とか手計算で、複雑な計算をやってのけるってこと? そういうのを追求してるのね?」
カオリ、今度は黙って、またコクリとうなずく。
なんだ。そういう話か。別に、そういうことするのは全然構わないんだけど。最初からわかりやすく言ってくれればそれでいいのに。
「計算機やコンピューターに頼らないで計算する……そうすると、頭が良くなるのね?」
「人智を汲み尽くすのは、人智なのです。数列道50億年の道のりですが、未だ汲みつくせてはいません。まだまだ、私たちは足らないのです」
また、ややこしくなりそうだ。
レイラは、話をわかりやすい方へ引き戻す。
「カオリ、じゃあ、あなたは、結構すごい計算が機械に頼らずできるのね? そういう修行というか、訓練をしてるんでしょ?」
カオリ、コクリと。
「問題を出してみてください?」
え?
問題?
数学の問題ってことか?
レイラだって。警察学校に入学したんだ。電子機器を使わないで数学の問題を解くことは、それなりにできた。今じゃ、数学なんてもう全部忘れたけど。
夢見心地のカオリ。数列家と称している。ダウナーな子が、今日は妙に積極的なんだけど。
普通の数学のテストができるとか、きっとそういう次元じゃないのだろう。
レイラは、自分の携帯端末を持ちだし、4桁の掛け算問題を入力し表示する。
「こういうのなら、暗算でもできるの?」
「はい」
カオリは、チラっと問題を見ると、すぐに解答を言った。
レイラが携帯端末の計算機でチェックすると、正解だった。
「おお、すごい」
無口で、夢見心地の16歳の少女。確かに普通じゃない計算暗算能力を持っている。頭の中は、数字と記号でいっぱいなんだろうか。いや、いつもその瞳には、目の前を数字や記号がふわふわ飛んでいるのが視えるのだろうか。
数列家。コンピューターに頼らず、自分の脳を使った計算暗算演算力を高めるのを目指す。そういう考え方もあるだろう。
科学技術全盛の時代になっても、人は、スポーツだ、古武術古武道だ、自分の身体を強化することに熱心だ。レイラも、刑事として、武器や道具に頼らない体術格闘術を鍛えている。生の人間の能力の強化。これが人類永遠のテーマであることには変わりは無い。
しかし。
脳を使った計算力をいくら鍛錬で高めても、コンピューターには勝てないだろう。いくら身体トレーニングしても、人間がロボットに勝てるようになるわけではない。それと同じだ。
人智で、なんちゃらを汲む? そう言ってたっけ?
コンピューターじゃなくて脳を使って考えることで、できること、見えてくるもの、そういうのもひょっとしたらあるのかもしれない。レイラには、よくわからないが。
で、結局最初の疑問に戻る。
「えーと、カオリがその、数列道? で、脳の体操を頑張ってるのはよくわかった。すごいね。本当にびっくりした。それで、その、なんで私が人を探してるって言ったの? 数列で、誰かの考えや、していることも、わかったりするの?」
カオリ、さらに顔近づけてくる。なんだかもう、くっつきそう。
「森羅万象のざわめき、星の運行、すべて数列のうち。数列で表現できるのです。数列で量れないものは、ありません。私たち数列家は、視るのです。視えるのです」
またまた。
あっちの世界へぶっとびそう。
なんだかもう。要するに、これは……星占いみたいなものか。
頭を使いすぎると、オカルトっぽくなるって言うけど、そうなんだな。きっとそういうことだ。
星占いおみくじでも、それなりに的中することはある。探し人、いくらでも解釈ができる言葉だし。たまたま、かすっただけだろう。
あまり気にすることはないんだ。
カオリは、数字、数列の世界に夢中。いつも数列ばかり視ている。
潜入捜査の秘密に気づくことなど、ありえない。
ほっとしたレイラ。
でも。
どうしても、気になった。
訊いてみる。
「あの、カオリ、あなた、なんで下着モデルになったの?」
カオリは、うつむいた。
その病的な白さの頬が、かすかに、ほんのかすかに、染まった。
「脱いで勝負したかったんです」
うーん。
レイラは、脱力。
なるほど。
数列家といっても、いつも数ばかり追いかけているわけじゃないんだ。
カオリも、キラキラ光る世界に憧れている、年頃の女の子なんだ。割とフツーかも?
ただちょっと、数字や記号が頭の周りをいっぱい巡っている子。
トップ下着モデルの世界。
いろんな子がいるんだ。
ブルーのブラジャーにショーツ、お尻にピョンと仔鹿の尻尾を突き立てたダウナー下着モデルにして数列家のカオリ。
いつまでも、夢見心地の瞳。




