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下着モデル潜入捜査官レイラの事件簿  作者: 茜見零
事件簿No.4 数列家の下着モデル
32/179

第32話 数列家の少女



 「あなた、誰かを探していますね?」


 いきなり訊かれた。


 レイラは、ビクっとなる。


 なんだ?


 いかにもレイラは、失踪した下着モデルのナミエを探している。そのために、自ら下着モデルとなって、ドン・ハルキサワ事務所に潜り込んでいるのだ。


 潜入捜査である。レイラの身分と目的、それは絶対の秘匿なんだけど。


 バレた? 


 それはまずい。まずすぎるんだけど。


 レイラは振り向く。


 こちらを見つめているのは。


 カオリ。


 同僚のモデルだった。



 ドン・ハルキサワ事務所のモデルの大部屋である。レイラが仕事の下着(アンダーウェア)姿でせっせとメイクをしていたところ、いきなり後ろから声をかけられたのだ。


 他のモデルたちは、仕事だ休日だなんだで、出払っている。


 今、大部屋にいるのは、レイラとカオリの2人だけ。


 カオリ。


 レイラのことを、じっと見つめている。


 小柄な子。確か16歳。年下。青のショートヘア。ピンクの瞳。痩せている。病的なまでに白い肌。胸は小さい。というか、まったく、ない。こども体型。この子も今は仕事の下着姿。身に付けているのはブルーのブラジャーとショーツだけ。お尻には、小さな栗色の尻尾がピョンと突き出している。仔鹿の尻尾。今季のドン・ハルサワの仕様(モード)は、尻尾(テール)がテーマだ。みんな尻尾を付けている。レイラのお尻には、ペルシャ猫の長い艶やかな尻尾。



 カオリのまなざし。夢見心地な瞳をしている。レイラを()ているのかどうかすら、わからない。だいぶ距離は近いんだけど。


 この子はいつもこうなのだ。無口で、いつも夢見心地。周囲の人間が視界に入ってないように見えてしまう。笑ったり、怒ったりするのを見たことがない。


 レイラはこれまで、カオリと話した事はなかった。


 それが。


 いきなり声をかけられたのだ。


 しかも、人を探している? 潜入捜査の目的。いきなり図星。


 なんでわかったんだ?


 でも、とりあえず。


 「え、なんのことかな」


 レイラは、ややうろたえながら、ごまかすことにする。様子を見るのだ。


 「誰かを探してる? 私が? うーん、そう見えたかな。あ、そうだ。私、自分を探しているの! 自分を見つめ直して、本当に自分のやりたいこととか見つけようかと思って。それで、下着モデルの世界に飛び込んでみたの。こういうところで、いろんなことやいろんな人とぶつかれば、きっとまだ知らない自分の姿が見えてくる。そんなこと考えちゃって。あはは。おかしいかな」


 笑顔満開のレイラ。とりあえずこれでいいかな。


 カオリは。黙ってレイラを見つめている。


 相変わらず表情は変わらない。夢見心地な。


 この子はずっとそうなのだ。


 下着モデルの仕事をしている時も。


 モデルといえば、満開の笑顔ができることが必須条件だが、この頃は、ダウナー系モデルというのも流行っていた。


 ダウナー系。大まかにいって、無口無表情で、おとなしめな子である。どこか神秘的、謎めいているような。


 カオリは、この事務所のダウナー系担当で、まだ所属して3ヶ月なのに、そこそこ人気がある。ダウナー系担当というか、本人の性格がまさにダウナーなのだ。仕事以外でもいつも無口で、ずっと夢見心地な表情を変えない。周囲と関わらない。純正ダウナー。キャラでやっているのではない。


 見つめ合う2人。しばしの沈黙。


 なんだろう、この状況は。


 レイラの刑事の経験からしても、カオリの表情を読むことができない。


 リアルダウナーか。厄介だ。


 ともあれ、何か話をしなくちゃ。


 「あの、どうして、私が人を探しているって思ったの?」


 「数列」


 「は?」


 予期せぬ答えに、レイラは、混乱する。


 なに?


 今、なんて言った?


 数列? 数列って、数学の?


 なんで? なんで急に数列が出てくるの?


 カオリは、表情一切変えずに、また言った。


 「私は数列家なのです」


 「え?」


 さらに混乱が広がる。ダメだ。もうついていけない。数列家? そういった? そんなの初めて聞いた。


 「あの……数列家? それ、なんなの?」


 カオリ、かなり近い距離で、じっとレイラを見つめながら、


 「数列家。それは数列道を究めんとする者。機械(メカ)ではなく、人智をもって数のことを制するのです。数列とは、本来、人智が生みしもの。数はすべて、人の脳によって計れるのです。数列を究めれば、人智の深奥もまた開示されるのです。人智を汲むのに、数列が必要なのです。ところが人は、数を計ることを、すっかりコンピューターに任せるようになってしまいました。これではいけないのです。人智の神秘を、自ら閉ざしてしまっているのです。数列家は、数十億年にわたって、人智のみで数を計る秘法を追求してきました。人のことも、この宇宙の森羅万象の全てのことも、数列道で、汲み、解き明かすのです」



 うわああっ!

 


 なんだ!



 いきなりなんだか。


 ガツンとやられた。



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