第30話 ウェルカムドリンク
リョウタの招待。
当日の夜が来た。
レイラ、慎重にドレスを選ぶ。
ネクリ推奨のピンクのドレス。フレッシュ感、若い女の子の初々しさを最大限強調したドレスだ。
失踪したナミエは、清楚系だった。そういうのが好みなのかもしれない。合わせよう。
ドレスを纏うレイラ。
全身鏡で、チェック。
よし。
今日はこれが、刑事レイラの戦闘服だ。持ち物は小さなバッグだけ。電撃携帯端末と、硬化プラスティックスティック、それに薬物検知器が入っている。
エアカータクシーで、リョウタの家の前に、乗り付けた。
リョウタの家。
星都でも一流のタワービルの中にある。超高額高級でスペースはたっぷり。さすが、成功者だ。
レイラ、重力制御式エレベーターで、上層階へ飛ぶ。
透明なガラス壁から見える星都の景色。
無数の光が輝いている。
この夜の光と闇の中に消えた1人の少女。絶対に真相は突き止める。
◇
「やあ、よく来てくれたね、レイラちゃん」
ピンポンすると、すぐに扉を開け、リョウタの顔が覗く。
今まで見た中で、最上級に蕩けた顔。目尻が下がりまくっている。
普通だったらレイラが絶対に交際したくないタイプの男だが、今は仕事だ。好悪の感情はない。
「本当にお呼ばれしてくれるなんて。嬉しいです」
なるべく可愛らしく、レイラ、伏し目がちにいう。油断させるのだ。ギリギリまで、刑事の本性を出してはいけない。
「さ、入って、今日はパーティー!、パーティーだからね!」
リョウタ、よだれを垂らさんばかりにしている。
「失礼します」
レイラは、室内へ。
すばやく視線を走らせる。
贅を尽くした室内。さすがに趣味は良い。最先端ファッションの粋が惜しげもなく。こういうところに入っただけで、メロメロになっちゃう子だっているだろう。
「レイラちゃん、じゃあ、そこで待ってて。僕、準備してくるから。あ、寛いでね。自分の家だと思って」
リョウタは、せかせかと奥へ消える。
レイラ、一つ息をする。
疑ってない。まずは成功だ。いよいよ突入。後戻りはできない。
これからの手筈。
見立てが正しいなら。
これから2人で普通に乾杯し、食事をするながれになる。
そしてリョウタは。タイミングを見て、〝黄金のカツレツ〟を勧めてくるだろう。受け取ったレイラは、ドキドキするふりをしながら、そっと、薬物検知器を使う。違法薬物の反応が出たら、すかさずリョウタを危険薬物所持の現行犯で、取り押さえる。後は、警察にすぐ通報して、応援を呼ぶ。しっかり証拠を抑えれば、組織的捜査ができる。全く証拠を残さずに人1人消すことは、できない。ナミエの手がかり、きっと見つかるだろう。
まずは。
今の段階で、疑われてはいけない。
リョウタが〝黄金のカツレツ〟を持ち出すまで。
場馴れしていない、うきうきした、ぽっと出の女の子を演じるのだ。
えーと。
今、するべきふさわしい行動とは。
レイラ、考える。
室内を、キョロキョロ見回す。
おや?
小さなカウンターに、12色の小さなグラスが並べてある。中には、グラスの色と同じ、12色のドリンクが。
ウェルカムドリンクか。
ここは、好奇心いっぱいの無邪気な女の子を演じるチャンス。
「うわー、これ、可愛い!」
レイラ、わざと明るく大きな声を出す。
「なにかなー、綺麗! 12色のドリンク! こんなの見るの初めて! 決めた! 私は、ブルーにする!」
レイラ、12色のグラスから、ブルーのグラスを選び、ぐっと飲み干す。
「うわああああっ!」
思わず悲鳴。かすれた悲鳴だ。
喉が焼けた。
喉からすぐに食道、胃、そして全身がかっかと燃え上がる。痺れる。心臓の動悸がする。呼吸できない。
頭がグラグラする。
視界が歪む。
しまった!
これは危険薬物!
〝黄金のカツレツ〟を仕込んでたんだ!
まさかウェルカムドリンクに仕込むとは。完全に油断していた。いきなり薬を飲ませてくるとは。いや、この可能性だって、考えてなきゃいけなかったんだ。潜入捜査に来て、なんてザマ。
レイラ、意識がぼやける。
「レイラちゃん、どうしたの?」
いやに頭に響く。リョウタの声だ。感覚器官も、おかしくなっている。
リョウタ。レイラの歪んだ視界に、蕩けるような顔が、大きく広がっていく。
だめだ! 取り押さえないと!
しかし。体が全く動かない。全身から汗が噴きでる。もう声も出せない。目を大きく見開く。
「レイラちゃん」
その声が、ガンガン頭に響く。
リョウタの顔、さらに大きく歪みながら、迫ってくる。
もう全部溶けちゃいそうだ。




