第28話 危険な見立て
「うーん」
レイラは、両腕を頭の後ろで組み、考え込む。
情報は拾えるだけ拾った。
わかったこと。
うちの事務所の評判は、いたって良い。事件など起こらない。起きていない。
この前、ラシエの件があったけど。あれも確かに事件に発展すると言えばしたかもしれない。でも大事にはならなくてすんだ。
リョウタに、怪しい噂は無い。ネクリによれば、リョウタは、女の子に声をかけずにいられない病気とのことだが、そんなに無茶なことはしていないということになる。ルイーザのガードが、しっかりしているというべきなのか。
声をかけて、引っ掛けてものにしたモデルとこじれていざこざになるくらいか。それもそこまでの大事件には発展していない。
しかし。リョウタから引き出した話。そこからの見立て。
新人モデルのナミエは、リョウタに誘われ、危険薬物の〝カツレツ〟を飲まされた。メロメロになって〝溶けた〟
これが事実なら、もう完全な犯罪だ。
だが。あれこれ調べた情報とは、だいぶ開きがある。
この見立ては違うのか?
わからない。今の段階では。
しかし、せっかく手がかりがつながったのだ。追わなければいけない。
見立てが正しいとすると、どうなるか。
これまで問題起こしてなかったリョウタ。どこかで、おそらくパーティーか何かで、誰かから〝カツレツ〟について教えられ、服用した。今でも、細々と〝カツレツ〟の流通ルートはあるのだ。業界は広い。怪しい輩も多数蠢いている。それまで問題を起こしてなかった人物でも、魔の誘惑に嵌まることは、あるのだ。〝カツレツ〟を知ったリョウタ。自分で気にいって使うようになった。これはごく最近のことだろう。
リョウタが違法薬物を服用使用し始めたの自体、最近のことだろう。ずっと常用していれば、必ず表面化するものだ。
そして、〝カツレツ〟漬けになったリョウタは。
今度は、女の子に使うことを考えた。女の子に対する欲望を、危険薬物が肥大化させ、今までいない行動をすることになった。
標的に選ばれたのが、新人ナミエ。
リョウタは、ナミエを誘いだし、2人きりで、〝カツレツ〟を使用した。
そしてどうなったんだろう。
危険薬物だ。事故が起きたのか。ナミエの身になにかが起こった。
ナミエは。
死亡した?
レイラは、最悪の事態を想像する。もちろん失踪事件だ。死亡の可能性も、最初から考慮している。
一流ファッション事務所のカメラマンとモデルが、違法薬物を使って死亡事故を起こした。大事件、大スキャンダルだ。
で、隠した?
そうすると、さらに大きな犯罪になる。
リョウタはそこまでするか?
リョウタだけではない。
ナミエ失踪について、事務所全体で隠している。これはどういうことか。
ドンやルイーザも、関わっているのか?
一緒に違法薬物を服用したナミエが死亡して動転したリョウタは、ルイーザに相談した。事務所の取り仕切りをしているのは、ルイーザだ。そして、ルイーザは隠蔽に協力した? この件が表面化すれば、事務所の名は、一挙に地に堕ちることとなる。提携企業も、手を引くだろう。この業界、イメージが全てなのだ。事務所の破滅を避けるために、モデルの死を隠した?
聡明でしっかり者のルイーザがそんなことをするとは、とても思えない。
だが。
地位と富、名声の全てがかかっているのだ。人の死という錘が、天秤の向こう側へ落ちてしまうこともあるかもしれない。
レイラにとって、あらゆる意味で信じたくない見立て、推理であった。
事務所の人たち、どう見ても悪人には見えない。
しかし自分は刑事なのだ。見たくない真相であっても、突き止めなければならない。
一見、犯罪と無縁そうに見える人でも、とにかく疑ってかかる。それが基本なのだ。
この線、食いついてみよう。
リョウタから、通信が来た。
『レイラちゃん、明後日空いてる? 僕のとっておきの〝黄金のカツレツ〟をご馳走するよ』
来た。
よし、行こう。
行けばわかる。完全に決着がつく。
行くしかない。それが潜入捜査だ。




