第25話 突破口
「レイラちゃん、私服の趣味もいいじゃない」
リョウタ、満足げに杯を上げる。
「ありがとうございます」
レイラ、ドギマギしてみせる。というか、服のことを言われると、実際にドギマギする。今日の私服。この前のネクリとのお買い物が、さっそく役に立った。ファッション業界人的にも、これは合格らしい。意外と私、イケるんじゃないの? いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない!
こ洒落たレストラン。
なかなか趣味が良い。さすが業界人である。リョウタが指定してきたのだ。通信、すぐ来た。
仕事の後、さっそく落ち合って、2人で食事。
業界の大物カメラマンからの〝お誘い〟に新人モデルレイラは、嬉々として飛びついた。という体であるが、釣り針を仕掛けたのは、レイラである。
狙い通り、ドン・ハルキサワ事務所の重要人物と、一気に距離が詰められた。
潜入捜査、さらに深く。
リョウタを捜査のカードとして使う。撮影の仕事をする前から、レイラは作戦を温めていたのである。
事前に、仕事がらみの人間、リョウタについても、情報収集していた。
「今度の撮影、カメラマンはリョウタっていうんだけど、この人、どんな人だろう?」
「へー、すごいじゃない」
先輩もモデルのネクリが、教えてくれた。
「うちの事務所の専属カメラマンでも、トップの人だよ。もちろん業界の大物ね。まだ若い、30代前半だと思ったけど、凄腕でね。ドンの信頼も厚いの。見た目はすっごくチャラいのよ。でも、画を撮ることにかけては、宇宙一品ね。私も何度か仕事したけど、結構興奮しちゃうわ。やり手よ。いきなりトップカメラマンとお仕事なんて、レイラ、あなた、幸運よ」
「ふうん、そうなんだ」
「あ、でもね」
ネクリ、口に指を当てて、
「これ、あんまり大きな声じゃ言えないんだけど、リョウタって、女の子に手が早いことで有名でね。うちの事務所で問題を起こさないようにって、ルイーザさんに釘を刺されているんだけど、わからないわよ。私と仕事をした時も、遠回しに誘ってきたから」
「へえ。モデルとカメラマンの関係って、ご法度なんだ」
ネクリ、鼻にしわを寄せる。
「ご法度っていうか、トラブルが困るのよ。大物カメラマンが、モデルをつまみ食いしてポイ捨てしまくったりしたら、みんなの関係もギクシャクするし、雰囲気悪くなるじゃない? だから気を付けろっていうこと。カメラマンさんだけじゃなくてね。スタッフさんとの距離の取り方を覚えるのも、仕事のうちよ」
「そうなんだ。でも、ルイーザさんが目を光らせていて、釘を刺してるんでしょ。だったら安心ですよね」
「そうでもないの」
ネクリ、眉を大げさに寄せてみせる。
「リョウタはカメラマンの才能は抜群だけど、病気なのね」
「病気?」
「女の子を見ると、声をかけずにはいられないのよ。あんまり問題起こしたら、ここの契約だって切られるのにね。そういうのわかっていても、ついつい本能が抑えられないみたい。やっぱり何かに突出して秀でた人って、どこかにその歪みがくるってこと。そういう人、業界に多いのよ。ま、私たちが気をつければ大丈夫よ。強引な迫り方はしてこないから。結局、モデルは、自分の身は自分で守らなきゃだめってこと」
そういうものか。
しかし逆に。
これは使えるのではないか? 女の子に手が早い? 潜入捜査の切り札として、男女関係。もちろんやたらと乱発するのは危険だが、それなりに使うのは良いだろう。とにかくいろいろ聞き出さなくてはいけないのだ。
事務所に入って。
最初の新作コレクションショーで宇宙野盗ゴラン団との一件の結果、ドンに注目され、いきなり事務所のトップと繋がれ懐に飛び込めだ。それはよかったんだけど。
ドンは、あれっきり、レイラをイメージしているという新作の制作にかかりきりで、閉じこもっている。制作に熱中しているらしく、自分の制作ルームから1歩も外に出てこない。レイラも全然会えない。星の啓示とやらが降ってくるのがドンの創作の生命線なので、とりあえずレイラはお呼びでないようだ。
ドンの一番弟子で、事務所のモデルたちを取り仕切っている副社長のルイーザも、優秀で、なかなか如才のない女性だ。みんなに目配りしている。
必要な事は言うし、不要な事は決して言わない。レイラに目をかけてくれているといっても、付け入る隙が全然ない。
事務所の裏事情を知ってそうで、なおかつ、あれこれ喋ってくれそうな人物。
カメラマン、リョウタ。
絶好の標的だ。
ここを突破口にしよう。




