第24話 釣り針
「はい、お疲れ様ーっ!」
撮影は終わった。
リョウタは、ご機嫌である。
レイラは更衣室で撮影用の下着を脱いで、普通の下着と服に着替えてくる。
「今日はどうも、ありがとうございました」
リョウタに、丁寧にお辞儀する。新人らしく、ぴしっと背筋を伸ばして。
「うーん、レイラちゃん、本当によかった。なんていうか、君の爆発的なエネルギー、みんなを星屑にしちゃうようなのを感じちゃった。もう、吹っ飛ばして、吹っ飛ばして、吹っ飛ばすのね。熱かった。周りはみんな消し炭ね。もう、カメラを持つ手が火傷するかと思うくらい」
撮影が終わっても、まだ軽く興奮状態のリョウタ。
「そんな」
レイラは、ややぎこちない笑顔を浮かべ、もう一度、お辞儀。リョウタは何を言ってるんだ? みんなを吹っ飛ばして消し炭? 悪党相手ならそうしてやるけど。下着モデルの自分にそんな力だ気だあるの?
「もう、私、夢中で。何がなんだかわからず。本当に、すごいお仕事の体験できました。どうもありがとうございました」
なるべく新人ぽく。カメラを置いたリョウタ。ギラギラした目でレイラを見つめる。
「謙遜しなくたっていいんだよ。やっぱりルイーザさんが目をつけるだけある。君、何かあるね。またの仕事も、一緒によろしくね」
こういうのも、カメラマンのモデル操縦術なのだろうか。将来、有望そうなモデルを気を良くさせて、味方につけておくとか。打算と野心が、渦巻く世界。
とにもかくにも。
「まあ、どうしよう」
レイラは、〝嬉しくてしょうがありません〟アピール。オドオドしてみせる。突如、脚光を浴びた新人の女の子。
「リョウタ先生に、そんなふうに言ってもらえるなんて。お世辞でもうれしいです。心臓がひっくり返っちゃいそう。ああ、みんなに自慢したいなあ。でも、私、本当にモデルは初めてで。何がいいのか悪いのか、全くわからないんです。だから、いろいろ不安で。みんなに認めてもらえるのは嬉しいけど、全然勉強が足りない。どうすればいいんだろう、いつも悩んでるんです」
すっとリョウタに近づき、小声で、囁くように言う。
「レイラちゃん、君は、あれこれ心配するようなことを、何にもないよ。勉強が足りない? 確かに、経験が足りないと不安だよね。仕事の事、業界のことで、悩んでいるの?」
「はい」
レイラ、目を伏せる。
「本当に、誰かにいろいろ相談できるといいんですけど」
「うーん、それじゃ」
リョウタの眼が光った。
「僕でよければ、相談に乗るよ」
おおっ、
食いついてきた。
レイラ、内心、やったぜと叫ぶが、さあらぬ体で、
「そんな。リョウタ先生に相談に乗ってもらえるなんて。私、まだ駆け出しだし」
「ううん、いいんだよ。将来ある子の力になれるなら、僕はなんだって惜しんだりしないさ」
耳元で囁くように、言ってくる。
「本当ですか?……それじゃあ、よろしくお願いします!」
レイラも、小声で。
他のスタッフに見えないように、こっそりと、リョウタと連絡先を交換する。
仕事が終わり、スタッフの面々に挨拶し、撮影ルームを出る。
1人になるやいなや。携帯端末で、さっそくリョウタに通信を送る。
『今日はどうもありがとうございました、先生のこと、頼りにしています』
すぐに返事が来た。
『レイラちゃん、こちらこそよろしくね。話がしたいの? じゃあ食事でもする? 今日空いてる』
来た。
食いついてきた。
レイラは、はい、ぜひ、喜んでと返信する。
よし。
潜入捜査。次の段階へ。
今度の標的は、
カメラマン、リョウタ。




