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下着モデル潜入捜査官レイラの事件簿  作者: 茜見零
事件簿No.3 黄金のカツレツ事件
23/85

第23話 プロカメラマン VS 下着モデル



 軽佻浮薄。まるで絵に描いたような。目の前の男。カメラマンだ。


 「さあ、レイラちゃん、今度は、仔猫のポーズやってみよう。可愛く可愛く、ちょっとおねだりする感じ、手は軽く握って、招き猫のポーズ……そう、いいよ、尻尾は可愛く丸めてね」


 下着モデルの撮影の仕事。デビューした以上当然だ。モデルとしては正真正銘、右も左もわからない新人である。


 可愛く可愛く? これでいいのかな。レイラは、かなり必死。警察官の道を進んでからも、プライベートではおしゃれに気を配っているけど、そこまで可愛くなろうとは思っていなかった。


 ドン・ハルキサワ事務所の撮影ルーム。大きなベッドの上で。シンプルなブラジャーとショーツ、そしてお尻には例のペルシャ猫の尻尾、身に付けているのはそれだけ。いろんなポーズ、姿勢、表情を要求される。レイラ、とにかく、新人らしく要求に応えようと頑張る。これでいいのか? あんまり自信は無いけど。


 「いいよ、お、初々しい感じ、よく出ている。レイラちゃん、そのままフレッシュな感じでいこう。あ、あんまり顔下げないで。それじゃ捨て猫。そう。生まれたばかりの仔猫みたいな顔してみて。尻尾も可愛くね」


 カメラマンのリョウタ。下着デザイナーの第一人者であるドン・ハルキサワの事務所専属のカメラマンである。レイラの第一印象は、いかにもファッション業界人な軽佻浮薄の男、である。(とろ)けるような笑みをずっと浮かべ、挙動はシャッターを切るより早く、チャカチャカと動く。眼には、異様な力の光を宿している。仕事中、やや興奮(トランス)気味。


 レイラの印象はともかくとして、ドンの信任厚い業界のトップカメラマンなのだ。やはり、ファッション界のトップ職人というのは、それなりにエキセントリックなのだろうか。リョウタの撮った画、確かに1本芯のある力強さがある。それは確かだ。


 でも、生まれたばかりの仔猫の顔って、どうすりゃいいの? それに尻尾尻尾って言われるけど、これって自分の意思で動かせないんだけど!



 「はーい、一旦休憩しようか」


 レイラは、ほっとしてバスローブを羽織り、スタッフの差し出してくれたドリンクを口に含む。


 新人であっても、なかなか待遇扱いはいい。さすが一流トップモデル事務所だ。


 カメラを置いたリョウタが、近寄ってくる。


 「うーん。いいじゃない。レイラちゃん。いい画、撮れたよ。君、ちょっと違うね。他の女の子にはないものがある。なんていうか、デビューしたてなのに、肝が据わってるのね。僕も散々女の子見てきたけどね、ぽっと出の新人、ていうより、海千山千な手練、そういうのをビーンと感じちゃうのね。技術とかの問題じゃなくて」



 ドキュっ!



 海千山千? レイラ、焦る。リョウタ、やはり単に軽佻浮薄だけじゃないんだ。軽佻浮薄……そう見えるけど、(とろ)けるような笑顔をしながら、眼光は鋭い。こちらを一瞬で透過するような。


 そうだ。


 〝無邪気な女の子〟を演じようとしてたんだけど、リョウタの次から次への要求に応じようと必死になるうちに、自分の本性、刑事の本性が出ちゃったんだ。それを見抜かれた? もちろん、刑事だとは気づいてないんだろうけど。


 「あ、あの」


 レイラ、キョトンとした顔をしてみてる。内心は冷や汗ものであるが。


 「海千山千? どういう意味ですか? 手練? そんな……えーと、私、格闘技の経験とかあるから、つい気合入っちゃって、あ、だから肝が据わってるのは、自信があります。あはは」


 何とかごまかせるか?


 リョウタは、レイラを上から下まで眺め回して。


 「格闘技? うーん、そうね、確かにそういう筋肉の付きかたね。それで、時々目つきが鋭くなるのかな? こっちがビクッとするような目の光かたするじゃない? ねえ、僕の事、対戦相手だと思ってるの? 仔猫ちゃん?」



 うぎゅっ!



 目つき。必死になると、つい刑事の目つきをしちゃうんだ。まずい。気をつけなきゃ。悪党を威圧する目つき。ここでそれをしちゃ、まずい


 焦るレイラをよそに、リョウタは、(とろ)けるように、ハハハ、と笑う。


 「いいよ、レイラちゃん、僕のこと、対戦相手だと思っちゃって。この世界は戦いだからね。モデル対デザイナー、モデル対モデル、モデル対カメラマン、みんなお互い喰いあってのし上がるんだからね。周りは全部敵。もう、僕に、思いっきりがぶっと噛みついてきちゃって」


 にじりよるリョウタ。


 「あ、いえ、そんな」


 レイラ、困惑の演技。いや、演技じゃなくて、実際に困惑してるけど。こういう時、どうすりゃいいんだ。普通の女の子らしく、ぽかんとしてりゃ、それでいいのかな。


 「目つき、ですか、あ、やっぱり、格闘技経験のせいだと思うんです。気をつけます」


 「いいのよ! それがいいんだって!」


 リョウタの興奮(トランス)状態、さらに高まる。


 「ねえ、僕、ルイーザさんに言われているの、レイラちゃんの引き出し、全部開けちゃってって。それでその上に新しい引き出し、どんどんどんどん積んじゃってって。さりげなく言ってたけど、わかるの。長い付き合いだからね。ルイーザさんとは。ピンとくる。彼女、レイラちゃんに、相当期待しているよ。あれは、そういう言い方なの」


 リョウタ、レイラの耳元で囁く。撮影には、他のスタッフも大勢いるが、聞こえないように。


 うーむ、なんだこれは。


 こういうのも、カメラマンがモデルを上手く使いこなすための手練手管なのかしらん。


 「だから、レイラちゃん、自分を抑えようとは思わないで。もう全部出しちゃって。そしてなれるものに全部なろうよ。世界を変えちゃうの。ね、一緒に行こう」


 あ、はい、とレイラは頷く。


 満足顔のリョウタ、撮影ルームのスタッフ全員に威勢よく、


 「さ、次の撮影行くよ。次は青年向けコンテンツだからね。レイラちゃん、今度は女豹。仔猫から女豹に豹変するところ、見せちゃおうよ。みんなをドキっとさせよう。ね、レイラちゃんにはそれができるから。ガオっとやっちゃって」


 女豹か。多少、刑事の素を出してもいいのかな。


 ガオっと?


 尻尾は猫のままなんだけど。いいのかな。



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