第14話 ドンとの対面
「ホー、ホッホッホ、レイラちゃん、大活躍だったじゃない。もう、ほんと、すごかったんだから」
「ありがとうございます。とにかく、無我夢中で」
レイラの目の前にいるのは。
ドン・ハルキサワ。
言わずと知れた、下着ファッション業界の超大物デザイナー。この男の作品がその年の流行を左右すると言われている。
宇宙野盗ゴラン団の襲撃騒動で。
当然ながらそのまま下着ファッションショーは中止となった。
しかしながら、みんな俄然活気づいていた。会場に来ていたメディアも配信中継局も、突如の事件に、すごい絵が取れた、宇宙爆発的大注目の配信中継ができたと大喜びで、浮かれ騒いでいたのだ。
観客も。とりあえず怪我人死人も出なかったわけだし、かなりスリリングなリアリティショーが見れたと、興奮して、大満足だった。ショーは派手なほうがいいのだ。
不満でいっぱいだったのは、ドン・ハルサキワ新作コレクションの後で発表出場予定だった下着ファッションのメーカーの関係者と、出演が取りやめとなったモデルたちだけであった。
なんだか浮かれた業界だな。
レイラは、呆れている。
確かに被害はなかったけど。大事件には違いなかった。下手すると死人や怪我人が出たかもしれないのに。
注目を浴びてよかった、伝説のショーになった、と不謹慎な騒ぎ方をしている。呆れている場合でなかった。自分も不謹慎気流に巻き込まれる。
騒動の後、早速レイラはドン・ハルキサワに呼ばれた。
ドン・ハルキサワは、上機嫌であった。いや、かなり興奮している。いつも注目されている自分の新作発表ショーだけど、今回は確かにとびきりの大注目だ。それで、舞い上がってるのかな。
なんであれ。
ドン・ハルキサワ。レイラの標的だ。直接接近できるのは、願ったり叶ったりだ。
レイラは、ドン・ハルキサワの下着モデルオーディションに応募して合格した時、もちろんドン・ハルキサワと顔を合わせている。最終的な審査はドン・ハルキサワが行うから当然だ。しかしながら、大勢デビューする新人モデルたちの1人に過ぎなかった。宇宙きってのファッションデザイナー、ドン・ハルキサワには、モデルの手駒はゴマンといた。オーディションに合格したところで、業界の雲上人であるドンに直接接近できるわけではない。特に2人で言葉を交わしたこともなかった。
レイラがいきなり大舞台に立てたのは、ドンの一番弟子のデザイナー兼モデルの副社長ルイーザが、レイラの素質に目をつけ、気にいってくれたからである。
なかなかドンに近づくのは難しいと思っていたレイラだが、想定外の事件で、いきなりドンの目の前に来ることができたのである。これはこれでよかった、と言うべき。
レイラ、ドン・ハルキサワを仔細に観察する。
40代後半の男、背はやや低いが、エネルギッシュ。そしてどこか、いつもエキセントリックだった。すぐ別の世界にぶっ飛んでいきそうだ。〝世界が違う〟オーラを発散させている。カリスマファッションデザイナー。業界の頂点、雲上人。まあ、こんなものなんだろう。
ナミエの失踪。
この男が関わっているのか?
それはまだわからないけれど。
ともあれ。標的の前にきたのだ。
「ホー、ホッホッホ」
大事件大騒動で、ドン・ハルキサワのエキセントリックな興奮高揚、いつもの3倍マシ。いや、10倍マシにはなっている。
ドンは、体を揺すっている。軽いトランス状態にあるようだ。
「レイラちゃん、すごかったじゃない。もう、ファッションショーが、一転して、ヒーローショーね! みんな夢中になってたわよ! モデルが宇宙野盗を華麗な手さばきでやっつけちゃうなんて。宇宙ファッション史上に残る伝説になったのよ!」
ドンももちろん、正面の席でショーを観ていたのだ。
「レイラちゃん、すっごい銃の腕前じゃない。モデルする前は、もしかして射撃ゲームの女王だったりしたの?」
あの射撃を見て、射撃ゲームの女王……なんて思うんだ。
やっぱり感覚が少し、いや、だいぶずれている。
この場、どうしようか。
レイラ、頭、忙しく回転させる。
自分は今、潜入捜査でここにいる。ドン・ハルキサワの新人下着モデル、ナミエが消息を絶った。音信不通になったのだ。これは事件、そうレイラの勘が告げていた。事件だという証拠は、まだ何もない。だから正体を隠して捜査しなければいけないのだ。
宇宙警察の刑事だとバレては絶対にいけない。刑事で射撃の名手だとか、言うわけにはいかない。
「あ、あの私」
レイラは、ややうつ向く。
「本当に何が何だか。宇宙野盗が現れて、頭がパニックになっちゃって、夢中で銃の引き金をひいちゃったんです。でも、うまく当たってよかったです。事件解決に貢献できて、ほっとしています」
〝何も知らないわからない女の子が突然の事件発生にパニックになって行動したら、なぜかうまくいっちゃった〟
レイラは、この路線でごまかすことにした。ありえないごまかしである。
だが。
ドン・ハルキサワは、
「ホー、ホッホッホ、なんて素晴らしい! それって星と星がぶつかって、新しい星が生まれる、そのぐらいの確率の奇跡じゃないの? もう、あたしたちが見たのは、野盗の捕物なんかじゃない。宇宙の神秘、星の奇跡そのものよ!」
あっさり信じたようだ。レイラは驚く。
さらにドンは、
「レイラちゃん、あの銃はどうしたの? あたしのデザイン、ブラジャーの下の銃なんてあったかしら?」
「ええと」
レイラは、〝事情がよくわからずまごつく女の子〟を全力で演じる。
「あの、モデルの控え室にいるときに、銃が落ちているのを見つけたんです。本物の銃だとは思わなくて。きっと誰かの小物だと思って。持ち主を見つけて返さなきゃと思って拾って、とりあえずブラジャーの下に差し込んでおいたんです。自分でもそれをすっかり忘れてそのままランウェイしちゃったんです」
また、究極にありえない説明をするが、
「ホー、ホホホ!」
ドンは、またまたあっさり信じる。もう、これは奇跡だ!
「なにそれ、これ、確率とかの問題じゃないわね。どんな天文学的な計算を積み上げたって絶対に起こり得ないことが起きたんだもの!、そう、もう星の導きね! いい、レイラちゃん、あたしたちはみな、星の導きの世界に生きているの。星々に支配されているのよ。そして、星が特別な光を放った。ここに届いた。これぞ星の啓示! 幾億兆の星が放つ光、その中で特別な唯一無二の光、それが、あなたの頭上に落ちたのよ。レイラちゃん! そして、あたしは感じるの。受け止めるの。新たなる星の啓示! ああ、星と星がぶつかって新たな星が生まれる。そういう場所にあたしたちは立ってるのよ!」
ドンの高揚感、もう、宇宙の果てまで飛び出しそうだ。




