第122話 瓜二つの双子
「私はレイラ。ミルじゃないし、ミルって人も知らない。あなたのことも知らない。ねえ、わかって。人違いよ。さあ、離して」
レイラは、繰り返す。紫の瞳の少女は、レイラの両手をしっかりと握ったままだ。離したら、レイラが消えてなくなってしまう、そう心配してるかのようだ。
「ミル……」
少女は、つぶやいた。
「だって……絶対に……そっくりなんだもの」
ちょっと口をすぼめる。拗ねてるみたい。無邪気、というのか。いや、なにか引っかかる。
レイラは、少女を油断なく観察する。刑事の習性だ。高級住宅地の城館から飛び出してきたお嬢様。その筈だけど。何か違うのだ。言葉や物腰の端々に。生来のお嬢様らしからぬ、尖ったものを感じる。
少女は、じっとレイラを見つめると、
「ごめんなさい」
と、手を離した。
「本当にそっくりだけど。人違い、なのね」
◇
やっとわかってくれた。レイラは、ほっとする。そっくり? ミルと私が、瓜二つってこと?
それにしても、少女の瞳。表情。なんだか、ただごとではない。ミルというのは、この少女にとって、よほど大切な人なのか。
「私は、アスターシャ」
少女は名乗った。レイラと同じ18歳だと言う。
「ミルは、私の双子の姉なの。本当に、あなたにそっくりなの。だから、ミルが私に会いにきてくれた。そう思ったの」
アスターシャは携帯端末を取り出すと、画面を確認し、レイラに差し出す。
「見て。これが、ミルよ」
画面を見たレイラ、思わず、あっ、と叫ぶ。
「なにこれ。私じゃない! これは私!」
ミルの画像。まさしく、レイラそのものだった。
完全に瓜二つ。そっくり。これならそりゃ、誰だって間違える。
あれ、待てよ。レイラは、気づく。
目の前のアスターシャとミルは、双子の姉妹なんだよね。でも、顔は全く違う。アスターシャは、なかなか美しい少女だが、ミルの面影は、全くない。そして、ミルは、レイラと完全に瓜二つ。同じ顔。
二卵性双生児。そういうんだっけ。
レイラは考える。確か双子でも、二卵性なら、顔が全然違うはずだ。
アスターシャとミルは、二卵性双生児だから、顔が違う。そして、ミルのほうは、縁もゆかりもないレイラと、顔がそっくり。そういうことか。ちょっと、ややこしい。
「レイラ、だったわね」
と、アスターシャ。まだ、必死の瞳と表情をしている。
「わかったでしょ。あなたは、ミルとそっくり……というか、そのものだって。間違えて抱きついたのは、ごめんなさい。でも、本当に私、ミルに会いたいの。あなたが他人とは、思えない。お願い。私の家に入って。お茶をご馳走する。話を聞いて欲しいの。それだけ。ね、いいでしょ?」
アスターシャ、青ざめた顔をして、体を震わせている。
勝手気ままな、お嬢様のお願い。そうなのか? いや、もう少し何か、奥底にあるものを感じる。
が、
あまりのアスターシャの必死な様子に。
「うん。わかった。お茶だけ付き合うよ」
レイラは、アスターシャの招きに応じた。
後になって、つくづく思った。もっとよく考えるべきだったのだ。




