第121話 紫の瞳の少女
大繁栄星シン・トーキョー。宇宙でも有数の人口を、抱えている。
レイラは、星の名前と同じ星都シン・トーキョーの郊外の高級住宅街を、歩いていた。
今日は仕事が入っていない。
いつも行ったことのない星都の区域をのんびり歩き、手頃な喫茶店にでも入って、のんびりしようと思ったのだ。
潜入捜査というのは、心身の負担が大きく、疲れるのである。
閑静な高級住宅街。
立派な家が立ち並んでいる。
趣向を凝らした門に柵、塀があり、木立に囲まれている。
なんだか心が和む。
レイラの潜入したファッション業界、下着モデル業界、そこは生き馬の目を抜く世界。常に最先端、新しさを追い求め、競争の渦に飛び込んでいかなければならない。怒涛の世界。
その逆、静かで落ち着き洗練された空間に来ると、ほっとする。
ひときわ立派な屋敷の前で。
レイラは立ち止まり、見上げる。
「すごいお屋敷だな」
古風な仕様。重厚で宏壮な邸宅、いや、城館といった方がいいか。
レイラ、しばし佇む。
こういうところには、どんな人が住んでいるんだろう。お金持ちには違いないんだろうけど。別世界。そう感じる。
屋敷の門が開いた。正面の立派な門でなく、横の通用口。
中から慌ただしく飛び出して来たのは、少女だった。
レイラと年格好も、背格好も、同じくらい。紫のドレスに、白い帽子の少女。
◇
「ミル!」
屋敷から飛び出してきた少女は、いきなりレイラに抱きついてきた。
「あ、あの」
突然抱きつかれたレイラは、慌てる。
「なに? なんなの?」
「離さない。絶対!」
少女は、必死にレイラにしがみついてくる。甘いに匂いがした。高級な香水。
「だから、誰?」
と、レイラ、面食らう。
抱きついてきた少女。顔に全く見覚えは無い。でも、向こうは真剣だ。必死だ。ふざけているようには見えない。いったい何なんだ?
「ミル」
少女は、涙ぐんでいる。
「帰って来てくれたのね。会いに来てくれたのね。ずっと待ってた。また会えると思ってた。信じてたよ!」
うーん、これは、とレイラ。
勘違い。そうらしい。そうでなければ。何かのドッキリか?
「あの」
はっきりと、言った。
「なに? 私、あなたのことを、知らないんだけど。ミルって誰? 人違いじゃない?」
抱きついてきた少女は、まじまじとレイラを見つめる。
「ミル、ねえ、ミルでしょ?」
困ったな。レイラは、きっぱりと、
「もう。本当に私は、ミルじゃない。どうやら人違いみたいだね」
抱きついてきた紫の瞳の少女。レイラと同じ藍色の髪を、1つ編にして下げている。
少女は、レイラの手をぎゅっと握ったまま、少しだけ体を離すと、
「いいえ、間違いなく」
きっぱりと、言った。
「あなたは、私のミル」
その瞳は、真剣だった。
勘違い人違いは続行中だ。なんだか、面倒なことになりそうだ。
レイラの刑事の勘が、告げる。




