第120話 ショーツとフウチョウ
「あったよーっ!」
レイラは叫ぶ。その手には。
クレオラント社が社運を懸けて開発した、透かし織に特殊素材の宝石が縫い込まれたショーツ。高々と掲げている。失われて大騒動になっていたショーツだ。
オレンジフウチョウ。飛び立った先は、温室の高い棕櫚の木の頂だった。さっそく梯子を掛け、レイラが登ったのである。
棕櫚の木の頂には、小枝を集めて作ったオレンジフウチョウの可愛い巣があった。そこに、キラキラと宝石が光り輝くショーツがあったのである。
クレオラント社の開発部責任者の女性、レイラが取ってきたショーツを確認する。間違いなかった。安堵の表情が浮かぶ。企業スパイ、技術流出はなかったのだ。犯人は、温室の鳥だった。
ほっとしたのは、ドン・ハルキサワ事務所のルイーザその他の面々も同じ。事務所の信用問題に発展するところだったのだ。
誰よりも安心したのは、
「カオリ、ありがと!」
レイラは、夢見心地の瞳のダウナー系少女を抱きしめる。
「いえ」
カオリは、言う。
「オレンジフウチョウ。鳥は普通、嗅覚は発達していないのですが、園芸と観賞用に、この鳥はオレンジの香りに反応して、啄み、果実をもいで運ぶように、生命工学で造られたのです。人を恐れる性質があるので、みんながいないときに、こっそりとオレンジの香りのするショーツを持っていったのでしょう。これがわかったのも、すべては数列の導きなのです。森羅万象、宇宙の万物に、不思議はありません。ただ1つの法理に、支配されているのです」
「ほんと、助かった!」
レイラにとって、いつもなら、危険な匂いのする数列の講釈も、今はありがたく感じた。
◇
ギルバンは。
「無事解決か。めでたし、めでたし、だな」
「なに言ってるのよ!」
レイラは食ってかかる。
「あんた、今日、何もしてないじゃない! それで、よく報酬を受け取れるのね!」
「うーん」
と、ギルバン。
「俺は来たばかりなんだぜ。調査に着手したばかりだ。俺が本気を出せば、これくらい自力で簡単に解決できたぜ」
「どうだか」
レイラは白い目で探偵を見る。
「あっ、そうだ」
ギルバン、急に気づいたように、
「なに?」
と、レイラ。
「うん。レイラ、お前が下着モデルだとわかった。せっかくだから、画像を探して、評価してやるよ」
「……別に、いいよ」
レイラは、下着モデルである。職業柄、見られるのは当然なんだけど。こいつに見られるのは、なんだか。顔が、カーっと赤くなる。
「見られるのが、お前の仕事だろ?」
と、ギルバン。
「そうだけど」
「じゃあ、しっかり見てやるからな」
うぐ……
なんだろう。レイラの頭、妙に熱く。胸はざわめく。
「み、見るのは別にいいけど、別に感想とか、いらないからね! もうあんたなんかとは、絶対に会わないんだからっ!」
カッカして。
ギルバンを殴り倒してやりたかったのだが、事務所のみんなの手前、自重した。
◇
華やかな下着モデルの世界に身を置いて。
レイラの潜入捜査は、続く。
( 事件簿No.10 盗まれたショーツ 了 )




