第119話 数列家の出番
身体検査。
レイラは、もちろんギルバンにではなく、クレオラント社の女性社員によって、素っ裸になっての入念な身体検査を受けることになった。民間企業の内部調査である。法律上の捜査権限は無い。だからといって、拒否するわけにはいかないのである。
「これでわかったでしょ? 絶対に私じゃないから」
身体検査を終え、取調室に、女性社員と入れ替わりに戻ってきたギルバンに向かって、レイラは言う。もちろん、消えたショーツは出てこなかった。
「ううむ」
ギルバン、顎を撫でる。
「おかしい。パンツが煙のように消えてなくなる。そんな事はありえない。やはりどこかに、見落としがあるんだ」
「うん。ちゃんと考えてね。あんたが仕事をきちんとすればいいのよ」
「レイラ、お前、侮れんな。巧妙な罠を張った。そう、見える」
「だから、絶対に私じゃないって! もう疑わないでよ!」
「いずれにせよ、俺の眼を、いつまでも欺き通すことは、できん」
レイラも、もちろん、必死に考えていた。
ネクリのショーツ。クリーニングの籠に入れたのは、この目で確かに見た。その後。誰も籠から、持ち出せなかったはずだ。最後に部屋に1人で残っていたレイラ以外には。
企業スパイとして、疑われている。
このままじゃ、本当にまずい。なんとかしなくちゃ。
◇
「レイラさん、疑惑は晴ましたか?」
ギルバンの取り調べを終え。
一応、放免されたレイラは、事務所のモデル、スタッフみんなの待機している会議室に戻ってきた。声をかけてきたのは、カオリ。
「うーん」
レイラの顔色、冴えない。
「結局、ショーツは出てこないし。どうやってなくなったのかわからない。私が1番疑われている状況、全然変わりないのよ。もう、本当に困った。カオリ、数列の力で、ショーツを探せないの?」
「特殊素材の一枚の布。残念ながら、数列道50億年の歴史を汲み上げても、探すのは難しいです」
夢見心地な瞳のカオリも、お手上げのようだ。
ネクリも、やってくる。不安げな表情だ。
「レイラ、ごめんね。私のショーツのせいで」
「ネクリのせいじゃないから。気にしないで」
「レイラが盗むなんてありえない、みんな、それはわかっているから」
「うん。ありがとう」
その時、カオリが、
「ネクリさん、今日は香水を変えましたか?」
不意に、訊いた。珍しく、強い口調。
「え?」
目を丸くするネクリ。
「うん。変えたよ。オレンジの香り。わかるでしょ」
「オレンジ」
カオリの夢見心地な瞳が、見開く。
なんだろう、レイラはカオリを見つめる。香水のことなんて、急に言い出して。数列家の少女。何か気づいたのか? でも、香水とショーツの消失と、何の関係があるの?
「真相が、わかったかもしれません」
カオリが言った。
◇
みんなで、下着を試着体験した、スタジオに集まる。
ドン・ハルキサワ事務所の面々、クレオラント社のスタッフ。それにギルバンも。
「ちょっと実験をしてみましょう」
カオリが、言う。
「ネクリさん、ハンカチは持っていますか? ハンカチに、今日使った香水を落として、クリーニング籠の置いてあった場所に、置いてみて下さい」
うなずくネクリ。自分のハンカチに、香水を1滴垂らし、床に置く。
「皆さん、では、なるべくハンカチから、離れて見守りましょう。準備はできました。これで、真相がわかるはずです」
カオリの指示に従って。みんな、ハンカチから離れて、スタジオの隅に。
いったいどうなるのか?
固唾を呑んで見守る。
この温室へのガラス戸は、開け放たれている。
温かな風が、室内に入ってくる。
やがて。
不意に、何かが、飛び込んできた。
「あっ!」
みんな、思わず叫ぶ。
オレンジ色の鳥だ。小ぶりな体。長く美しい羽根をしている。鳥は、まっすぐに、ネクリのハンカチへ。そしてハンカチを咥えると、また、温室へと飛び立っていった。
みな、呆気にとられる。
「決まりです。これで、犯人がわかりましたね」
カオリが言う。
「ショーツを持っていったのは、あの鳥です。極楽鳥を特殊進化させた、オレンジフウチョウです。オレンジの香りに目の無い鳥です」
みな、オレンジの鳥の飛び立った先を、見上げる。




