第117話 現れた調査員
調査のための別室。
「よう。レイラ。また会ったな。疑われているのはお前か。びっくりしたぞ」
レイラの前に現れたのは、
「ギルバン!」
唖然となる。
ギルバン。
宇宙警察公認の探偵許可証を持つ、私立探偵。間違いなくその男だった。
レイラと同じ年頃の、長身の男。
今日も、黒いソフト帽に、黒いトレンチコートを着て現れた。
レイラ、開いた口が塞がらない。目を白黒させる。
ギルバンは、レイラと机を挟んで、正面に座る。
◇
「……なんで、あんたが?」
レイラ、やっとのことで自分を取り戻す。どういうことかは、まだ理解できない。
「これは、企業案件だ」
ギルバンは、応える。
「企業の重大の機密事件を、極秘調査するように依頼された。俺はクレオラント社とも契約してるんだね。呼び出されて、すっ飛んできたわけだ」
企業案件。今回の場合、大企業が巨額資金を投入して開発した新素材が、発表前に、紛失した。盗難を疑われる案件である。
つまり、企業スパイ。
それを前提に、ことが動いている。
最新の研究開発の成果は、莫大な利益につながる機密情報であり、トップシークレットであった。それが盗まれたとあっては、大問題だ。企業の命運を左右する問題になりかねない。
盗難事件といえ、こういう場合、企業は、正式に警察に被害届を出し、捜査を依頼する事は無い。警察に捜査依頼すれば、取引先や出入り業者を公然と疑うことになり、さらには自社の機密管理、警備が杜撰であると認めることになる。これは投資家の心理に悪影響を与える。機密情報の漏洩を許す企業となれば、信用度はガタ落ちになる。盗難の被害者とはいえ、事を公にするのは、マズイ。それが、現実であった。
一方、内部調査は、厳正に行わなければならない。
そこで、民間の調査員が活躍するのだが。
「なんで、よりによってこいつなの?」
レイラの疑問符、どんどん増える。
「ん? なんだ?」
と、余裕の表情のギルバン。
「俺はこれでも、業界で評判が良いんでね。あっちこっちから、ひっぱりだこさ」
「そう……なの?」
と、レイラ。まだ、半信半疑である。
「あんたみたいに、ウイスキーの匂いをプンプンされている若造が宇宙トップの女性物下着メーカー、クレオラント社に雇われているなんて。私立探偵業界って、いったいどうなってるのかしらね」
「俺に期待されているのは、成果だ」
ギルバンは鋭く言う。
「さっそく今日、重要な成果、収穫があったぞ」
「……なに? あんた、今ここに来たばっかなんでしょ? まだ調査もしない内から、いったい何がわかったっての?」
「うむ。レイラ、お前、下着モデルやってるんだな? しかも、ドン・ハルキサワ事務所の。驚いたぞ、本当に」
「え? そっちのこと? うん。確かに下着モデルだけど」
そうだ。ギルバンとは何回か顔を合わせたけど、こっちが下着モデルをしてること、言ってなかったんだ。もちろん刑事の正体についても、隠している。
こいつにいろいろ詮索されると……ちょっと面倒かな。
レイラは動揺を気取られぬように、あえて強気な口調で、
「なによ。私が下着モデルがやってちゃ、悪い?」
「うーん」
ギルバンは、レイラのメロン級の胸を見つめ、
「お前じゃ、下着より、中身をアピールしちゃうからな。あんまり向いてないと思うぞ」
「なんですって!」
レイラ、きっとなる。
「あんた、今、仕事中なんでしょ? そういう発言て、服務規定違反よね? ふざけた口利くなら、宇宙警察へ通報して、探偵証を取り上げさせてやるんだから!」
本当は殴ってやりたいところだが、今、取り調べを受けている立場である。調査員を殴るのは、いかにもまずい。
ん? でも。
ふと、気付いた。お前じゃ、下着より、中身をアピールしちゃう。ギルバンは、そういったよね。ひょっとして、これ、この男なりの褒め言葉だったりするの? 微妙にドギマギするレイラ。
「レイラ、お前こそ、刑務所行きにならないように、気を付けろよ」
ギルバンは、平然としている。
「さ、調査といこうか」
私立探偵の男の目が光る。鋭い視線。




