第116話 パンツの調査
パンツが1枚無くなった。
そういうことでは、ない。
宇宙でも超一流の下着メーカー大企業、クレオラント社。それが技術の粋を結集して作った新素材の下着。絶対の企業秘密案件だ。
それが、無くなった。大企業の命運をかけた技術流出案件である。1枚のショーツでも、莫大な利益の得失が生まれるのだ。
今日、試着したモデルたちが脱いだ下着は、すべて洗濯カゴに入れた。それをチェックしたところ、ショーツが1枚ないというのである。
事件である。
モデルたちを始め、ドン・ハルキサワ事務所の面々は、食堂から別室へ移される。
クレオラント社の開発部責任担当者の女性社員が、事実関係を確認する。
今回試着した下着は、誰が何を着たか全て記録されていた。問題の、無くなったショーツは履いていたのは、
ネクリ。
透かし織に宝石を散りばめた模様のショーツ。
間違いなかった。
◇
「ちょっと待ってください」
レイラは、手を挙げる。
「ネクリが問題のショーツ、手に持っているのを見ました。そしてネクリは、それを洗濯カゴの中に放りました。私は確かに見ました。間違いありません。ネクリがショーツを盗んだとか、そういう事はあり得ません」
と、力説する。
他のモデルからも、ネクリが問題のショーツを洗濯籠に入れたのを見た、との証言を得られた。
ネクリは自分の着ていた下着を、すべて、洗濯籠に入れた。それを何人も見て、しっかり証言している。ショーツを持ち出すことはできない。絶対に不可能だ。それは、はっきりした。では、誰が。
モデルのみんなが、試着したスタジオ。
最後に1人で残ったのは、
レイラ。
皆の証言が、一致した。スタジオを最後に出たのはレイラ。その後、スタジオの扉はぴったりと閉じられた。会社の人が確認している。間違いない。
◇
「えええっ! 私、やってませんけど!」
急に雲行きが怪しくなってきた。みんなの証言を総合すると、そうなる。レイラは、焦る。私が新開発のパンツを盗んだ? そんなことあるわけないんだけど。そうはいっても。開発部の女性の冷たい視線が刺さる。なんだか急に重たい感じが。
「な、何なの、この空気」
確かに。
レイラは、ネクリが自分の下着を、洗濯カゴに入れるのを見ていた。ネクリがスタジオから出ていくのを見ていた。そして、モデルのみんながスタジオを出て行った後、1人だった。これは自分でもわかってるし、みんなの証言でも、そうなる。レイラが、ネクリのショーツを物欲しそうに見ていた、と言う証言も出た。
あのショーツを、欲しいと思った。それは確かだ。うん。
でも。
ネクリのショーツを盗むなんて、ありえない。
自分じゃやってないのはわかっているけど。これは、かなりまずいな。置かれた状況。刑事の手法と手順での客観的分析。どう考えても怪しいのは自分。レイラはいよいよ焦る。
「レイラ、あなたを疑ってるわけじゃないの、これは決まりなの」
と、ルイーザ。
「ちゃんと調べてもらってね」
否応なく、レイラは、クレオラント社の取り調べを受けることになった。
◇
「あの、私、確かにスタジオに最後に1人で残っていました。それはその、今日一緒に撮影したお猿さんに挨拶しようと、そういう理由で。別に、みんなが脱いだ下着に手を出したりはしていません」
我ながら馬鹿なことを言っている。それはわかる。いかにも、妙なごまかしを並べてるようにしか。でも、事実なのだ。
不審の目でレイラを視るクレオラント社の社員。
「専門家の調査を受けてもらいます」
と、言われた。
1人で別室に連れていかれたレイラ。
今の状況って。自分は疑われている。大企業に徹底的に身辺調査されたら、どうなるか? パンツ泥棒とかの前に、宇宙警察の刑事だとバレちゃう。
まずいな、どうしよう、と焦りに焦りまくっていると。
調査員が、現れた。
「ええっ!」
レイラは、唖然となる。
現れたクレオラント社の調査員。
「なんで、あんたが!?」




