第112話 至高の美の向こうへ
「どうだった、カオリ。アンドロイドの究極の美、数列の研究の役に立ったの?」
星都に戻る帰りのエアバスで。
レイラは、カオリに訊いた。
小さな体を震わせながら、数列家の少女は応える。
「アンドロイド、人造物の美の波長は自然のものとは確かに違いますが、あれほどの完璧な数列の配置、初めてみました。人の造りしもので、あの域に辿り着くことができるなんて。でも、わかりました。人はきっと宇宙万物の根源数列に、迫ることができるのです。想いの強さ、それが無限の可能性を生み出すのです」
おやおや、とレイラ。
この子も、卒倒しなけりゃいいんだけど。
事務所へは、事情を説明した。事はあまり騒ぎ立てないでほしいと言うドーラの願いも伝えた。
ルイーザは、大満足だった。
「2人で調べに行ってくれたの? お手柄ね。これでみんなすっきりして、また仕事に取り掛かれる。なんてったって、リョウタはうちの事務所に必要なんだから」
リョウタは。
◇
「どうしたの? 元気ないですよ」
下着モデルの撮影現場。
レイラは、張り切って、リョウタに声をかける。レイラはビシッと決めた白のブラジャーにショーツ、お尻にはペルシャ猫の尻尾をピンと立てた、ドン・ハルキサワ肝煎の意匠の下着。
カメラを手にしたリョウタ。どうも元気がない。いつも撮影現場では、誰よりもハイテンションで興奮状態になり、モデルを盛り上げるのが役割なのだが。
「僕は、あの美女がアンドロイドだと見抜けなかった。そして今でも、彼女が究極の美だという思いを捨てきれない。本当に圧倒されたんだ……僕の追い求めた美とは何だったんだ。誰かが作った作品を、僕は越えることができないのか」
声を落とすリョウタ。
令嬢のアンドロイドに出会ってから、ややスランプ気味である。真相がすべてわかった今でも。芸術家気質なのである。自分の信じる美の基準が揺らぐ。それはとても応えるのだ。アンドロイドに負けた、自信が打ち砕かれた。それがリョウタの災難であった。
「もう」
レイラは声を張り上げる。
「大丈夫! 強い想いがあれば、アンドロイドがびっくりするような、すごい写真だって撮れるから! それに、生きている人間のピッチピチの女の子の方が、絶対にアンドロイドよりもいいに決まってるんだから!」
レイラも下着モデルの仕事に打ち込んでの自尊心がある。アンドロイドに負けたと言われて、このままでいるわけにはいかない。
レイラは、足を開き、両手を組んで高く掲げ、大胆なポーズをとる。ペルシャ猫の尻尾をピンと立てて。
「さあ、撮ってちょうだい、最高の1枚をね! ここにある美しさ、リョウタなら、きっと見つけられるんだから!」
◇
華やかな下着モデルの世界に身を置いて。
レイラの潜入捜査は、続く。
( 事件簿No.9 リョウタの災難 了 )




