第111話 交わる想いのキス
話を聴き終わったレイラ。
しばらく何も言えない。
死んだ恋人を待つために、永遠に生きるアンドロイドを作った。凄い話だ。ある意味、御伽話を超えている。
しかし、重要な点でちょっとおかしい。
「アンドロイドのお嬢様は、いったいなぜリョウタに近づいてきたんですか? リョウタの話では、お嬢様の方からリョウタに接吻してきたと言うんですが」
レイラは、どうもわからない。リョウタが永遠に恋人を待ち続ける美女の認めた相手? いや、どこからどう見ても、あの男は御伽話に出てくる恋人の役回りなどではない。絶対に。
ドーラは、ふっと笑った。
「あのカメラマンの方は、本当に、美しいものを愛し、美しいものを理解し、そして、この森の美しさに惹かれていたのです。それでアンドロイドに埋め込まれた令嬢の記憶と、共鳴したのではないかと思います」
そうなんだ。
リョウタ。他の点はともかく、美への情熱は、本物だ。絶対の妥協なき美への執着。それがあんな究極至高の美を持つアンドロイドを作り上げた令嬢の記憶と触れ合った。
時代を超え、美への想いが重なり交わったんだ。
それが接吻となった。
ひょっとしたら。長い歳月を経て、あのアンドロイドの思考回路も、少しバグっていたのかもしれない、レイラは思ったが、口には出さなかった。
気になることが、もう一つ。
「あの、接吻されて、リョウタは失神したと言うのですが、それはどういうことなんでしょう?」
「うーん」
ドーラは、考える。
「それは正確な事は分かりかねますが、思いが触れ合い、胸の高まりでリョウタさんは意識をなくした、そういうことではないかと思います」
なんだ。
やっぱり、いきなり美女に接吻された究極至高体験のせいで、そのまま意識がぶっ飛んじゃった、そういうことなのか。芸術家気質だと、いろいろあるんだな。
意識をなくし倒れたリョウタを心配したアンドロイドは、リョウタをこの小屋まで運んだ。それをドーラが見つけ、ベッドに寝かし介抱した。リョウタが裸だったのは、怪我や傷がないか、チェックしたからだと言う。
「ひょっとして事故になって、問題になるかもしれないと思い、私が一応、状況を撮影しました」
それが例の、送られてきた画像だった。
用事があったドーラが、小屋を離れた間に、リョウタは目覚め、わけもわからず逃げ出したのだと言う。
リョウタが無事に帰ったことを知ったドーラだが、少し心配になった。
「私はお嬢様を、ここでひっそりと守り続けたいのです。あまり騒ぎになってはいけない、リョウタさんが、またここに寄りつくことのないようにと思って、あの通信を送りました。リョウタさんの服に、アドレスの書いた名刺が入っていたので」
なるほど、とレイラ。
あの通信の文面が、適切であったかどうかは微妙だけど。そういう事情だったんだ。
◇
レイラとカオリ、小屋を辞去する。
調査の目的、すべて果たされたのだ。
このことで騒ぎ立てたりはしませんと、しっかりと約束した。ドーラは、笑顔で見送ってくれた。
アンドロイド美女は、現れなかった。
この森で、永遠に生き続ける大昔の令嬢の想い。
また、誰かと心を触れ合わせる日が、いつか来るのだろうか。




