第11話 宇宙野盗襲来
ドン・ハルキサワの下着新作コレクションのモデルたち。
先頭のモデルは、もうターンして長い通路を戻ってきている。
最後尾でランウェイするレイラ。頑張って先輩モデルたちについていく。
レイラが最前列で食いつくように見つめているバリルとニーナのちょうど目の前に来たときに。
ドオオオオオオーン!
大きな音がした。爆発音のように聞こえた。
なんだ?
会場がざわつく。これも新手の演出か? いったい何が始まるんだ?
みなが互いの顔を見合わせていると。
「お前ら、動くんじゃねえ、おとなしくしていやがれっ!」
大声とともに、ランウェイ通路の両側から、男たちが飛び出してきた。
「なんだ、あれは?」
「これが今日の趣向なの?」
観衆は、目を丸くする。
飛び出してきた男たち。
いかつい大男ばかりだ。全部で30人ばかり。
そのいでたち。大男たちの頭は。スキンヘッドに、モヒカン、それにモシャモシャの長髪。着ているのは、派手な色のシャツに上下破れたデニム。そして、肩パット。みんな、銃を持っている。
どう見ても世紀末スタイル。野盗や無法者でずっと人気の流行である。
会場は、しんと静まり帰った。
あまりの椿事である。華やかなファッションショーの場に全くふさわしくない世紀末タイルの男たちの登場。
なんだこりゃ!?
これが流行の最先端なのか?
会場の観衆、混乱する。
「うーん。今年の流行、突き抜けるところまで突きぬけましたねえ」
「突き抜けすぎじゃない? なんなの、これ。あの野暮ったい男ども。夢の世界がぶち壊しだよ。突き抜けすぎて、何も刺さらないよ」
「そうかな? あえて華やかな世界と真逆の世界をぶつけて、最先端の下着のアクセントにしてみた、そういうことじゃないの? これはこれで面白いよ。さすが、ドン・ハルキサワ」
「美女と野獣みたいな?」
「野獣? どう見ても美女と破落戸」
「今年の流行は、美女と破落戸がテーマですか。さすがファッション界。何が起きるかわかりませんねえ」
一瞬、静まり返った会場がまた、ざわめき始める。
目をぱちくりしているのは、ランウェイ中のモデル、司会、中継リポーター、ショーのスタッフたちである。
「こんなの、台本にないぞ!」
「こんな男達、誰が呼んだんだ!」
「騒ぐな!」
世紀末スタイルの男たちの中で、ひときわ大きい男が叫ぶ。手にマイクを持っている。ランウェイ脇の取材陣から奪ったものだ。
「俺たちは天下御免のゴラン団よ。残念ながらこれはショーじゃねえ。ゴラン団のおでまし。そういえば、わかるだろう。宇宙野盗ゴラン団よ。てめーら、命が惜しかったら、有り金残らず出しやがれ! いいか、決して俺たちに逆らうんじゃないぞ」
そういって、大男は、手にした銃を天井に向けて撃つ。
パン、と乾いた音がした。
大男、すぐ隣にいたモデル、レイラの腕をつかみ、銃を突きつける。
「さあ、わかったな。俺様がゴラン団の首領ゴラン様だ。ここはゴラン団が支配した。俺たちの指示通りにしろ! さもないと、こいつらの命がねーぞ」
キャー、と悲鳴が上がる。
ランウェイ通路の上で。
ゴラン団一味はみな、モデルを掴まえ、銃を突きつけている。
何が起きたのかと最初はキョトンとしていたモデルたちも、ここに至って事態を理解し恐怖に顔を歪め、悲鳴をあげている。ネクリも真っ青になって、ぶるぶると震えていた。
「キャー、誰か助けてー」
華やかなショーの会場は、一転、恐怖の戦慄と、悲鳴が駆け抜ける場に。
ゴラン団。
名高い宇宙野盗である。
風のように現れ、風のように金品を奪い去っていく。世紀末スタイルがトレードマークだった。
よりによって。宇宙最悪の野盗が宇宙最高のショーの舞台に現れたのだ。
パニックになる観客。
会場の警備員は銃を手に立ち上がるが、首領ゴランが一喝する。
「武器を持っているやつは、今すぐ捨てろ。さもないと、このお嬢ちゃんたちの頭が吹っ飛ぶぞ。見せしめに誰がふっとばしてやろうか?」
レイラの頭に、銃を突きつける。
ゴラン団一味はみな、モデルの頭に銃を突きつけている。百戦錬磨の宇宙野盗だ。手際は心得ている。
「キャー、やめてーっ!」
泣き叫ぶモデルたち。
人質を取られ、警備員たちは、なす術もない。
「さっさと銃を捨てるんだ」
ゴランが、凄みを利かす。
やむなく、警備員たちは銃を床に放っていく。
「そうだ、いいぞ」
ゴランは、ぐるっと会場を見回し、にんまりとする。もはや抵抗できるものは誰もおるまい。
ランウェイ通路の最前列の席で。
すぐ目の前のゴランを唖然として見つめるバリルとニーナ。
「なんと……派手なことをする連中だな」
目をぱちくりさせるバリル。ニーナはすばやく記憶を手繰る。
「ゴラン団、最近、この星域を荒らしまわっている神出鬼没の宇宙野盗ですね。どこからともなく現れる。でも、この人たちうまくいくのは大抵登場までみたいですよ」
「うむ。派手に現れては失敗して逃げていく。確かそういうのが多かったな。今回も失敗してくれるといいのだが」
「警視、これはどうします?」
バリルは、頭を掻く。
「なんとしたものか。確かに、大変な事態……しかし、我々は今公務中じゃないし。まずは様子を見るか。勤務中の警察がなんとかするだろう」
突然目の前で起きた事態に。
警察官2人組もさすがになすすべは無い。
宇宙野盗ゴラン団。
どこからどうやって現れたのかわからないけれど、ともあれ、一時的に大観衆のいるショー会場の占拠に成功したのは間違いない。しかしここから、どうやって金品を奪って逃走するのか? もちろん、すぐさま星系警察に通報がいって、即座に会場周辺に厳重な非常線包囲網が敷かれるのは間違いない。逃げおおせるとは、とても思えない。
半ば呆れているバリルとニーナをよそに。
首領ゴランは、得意絶頂。
「ハッハッハ。いいか、これから、部下をお宝回収に下す。財布にアクセサリー、金目の物を全部用意して待っていろ。いいな。抵抗するやつは片っ端から撃ち殺すぞ。ん?」
目が合った。
レイラと。




