第107話 森の小屋
「飛ばすよ! しっかりつかまっててね」
レイラは、エアバイクを発進。後部席のカオリは、しっかりとレイラの腰にしがみついている。
ビュンビュンと、
樹々の間を、エアバイクは疾走していく。
たちまち、警報器が鳴る。
「ここは私有地です。部外者の方は、直ちにお戻り下さい」
人工音声の警告が響く。
もちろん無視して、エアバイクを飛ばす。
「そろそろ、来るな」
レイラは、バイクの探知機を確認。
赤い点々が映っている。この方面のロボット番人、ロボット番犬だ。みんな、こっちめがけて集まってくる。
捕まったら、つまみ出されちゃう。
「そうはいくもんか」
レイラ、エアバイクのアクセルを目一杯踏む。
最高速度。
しがみつくカオリ、ブルブル震えている。
「もう、カオリ」
レイラは、笑顔で振り向く。
「知ってるでしょ。このバイク。重力クッション防御がついてるから。落っこちないし、事故にならないよ。そんなにガタガタしないで」
「で、でも怖いです!」
蒼白のカオリ。
夢見心地の数列家も、こういうのには弱いんだ。
森の深い奥へ。地面についた足跡を逆に辿りながら、エアバイクは、飛ぶ。番人ロボット番犬ロボットを、振り切りながら。
◇
急に、森が開けた。
背の高いの樹々の間に、草地があった。陽の光が、燦々と降り注いでいる。
「ここかな」
レイラは、エアバイクを停める。
見える。目の前。
小さな小屋があった。リョウタから、見た光景を詳しく聞き出しておいた。
白い壁にオレンジ色の屋根。おもちゃ箱の中のお家みたい。そして、樹々の向こうに美しい城館の尖塔が見える。
ドンピシャだ。
地面の足跡は、こっちのほうに続いていた。
間違いないだろう。
レイラとカオリ、バイクを降りる。
静かな空間だ。
もう警報器も聞こえず、番人番犬も追いかけてこない。
個人所有地には入ってこない、そういうルールなのだろうか。もちろんここの所有主には、通報が行っているはずだ。
2人は小屋に近づく。
窓があるが、内側から、カーテンがしっかりと閉まっている。
入り口の扉、呼び鈴を押してみるが反応は無い。トントン叩いても、何も返ってこない。一応ドアノブを回してみるが、開かない。
森の中の、静かな空間の、可愛いな小屋。
「向こうに見える城館が本邸で、これは別館かな。見た感じだと、森番か狩人の小屋って感じだね。ほんと、御伽話の世界そのまんま。城館も、すごく立派だし、ここの所有主の人は、お金持ちなんだね」
「所有主が、わかりました」
カオリが、携帯端末で位置座標をチェックし、ここの情報を精査している。
「ゼラント侯爵。星庁に登録している所有主は、そういう名前になっています」
「侯爵?」
「はい。大昔に栄えた古い家柄ですね」
人類は、宇宙世紀に入って宇宙各地の星々に移住し、国家を建設し、興亡を繰り返してきた。このシン・トーキョー星も、古くは王政の時代だったことがある。現在は王政も貴族制も法制度上消滅したが、名前だけは残っているのだ。
「ふーん、ここの持ち主、古い貴族の家なんだ」
レイラが、つぶやいた時、
「あっ!」
カオリが叫ぶ。レイラも、目を見張った。
いた。いや、現れた、と言うべきなのか。
気づいたときには、視界に入っていたのだ。
女性。
長い赤い髪と、赤いドレスの美女。
2人から少し離れたところで。
婉然と、微笑んでいる。




