第106話 森の美女
翌日。
レイラとカオリ、2人の下着モデルは高速エアバスで星立自然公園へと向かった。
そういえば、カオリと2人で遠出するのって初めてだったな。レイラは思う。でも、なんでこの子、この件に、妙に積極的なんだろう。
「カオリ、御伽話の世界が現実にあった。こういうのに、興味あるの?」
「至高の美しさ」
カオリは、どこかうっとりとしたような、やや厳しくもある口調で言う。
「リョウタさんは、言っていました。森で出会った美女のことを。リョウタさんの審美眼は本物です。きっと本物の美しさに出会ったんです。間違いありません。至高の美しさとは、至高の数列の配置を意味するのです。宇宙に響き渡る数列の妙なる旋律。この目で見ないわけにはいきません」
なんだ、とレイラ。
やっぱり数列なんだ。なんでも数列。カオリの頭の中は、いつも数字や記号がぐるぐると回っているんだ。人間の美も、自然の美も、全部数列に置き換えられる?
相変わらず、危険な発想に思えるんだけど。
◇
自然公園に着いた。
ここは、このシン・トーキョー星で一番大きな自然公園の一つである。
「うわー、すごい、さわやか、綺麗」
レイラは、思いっきり深呼吸をする。風が心地よい。
美しい森に囲まれた、柔らかな草地。
澄み切った空。遠くには、青い山々が見える。
「ここだね」
リョウタから、美女と遭遇した場所の位置座標は聞いてきた。2人は、自然公園の入り口で、エアバイクを借りて、ここまで飛ばしてきたのである。後ろの席に乗ったカオリは、しっかりと、レイラにしがみついていた。
「すっごく綺麗な場所。あのリョウタのお気に入りの場所だけのことはあるね。森も山も全部最高の絵。で、ここに美女が登場したと」
レイラ、あたりを見回す。しんと静まり返った、美しい世界。確かに夢想の中に誘いこまれそうだ。
「現れませんね」
カオリも、辺りをキョロキョロと見回している。
「今日は、美女さんは、お休みでしょうか」
「現れたら、どうなるんだろう?」
と、レイラ。
「やっぱりいきなり近づいて、接吻されちゃうのかな。ねえ、美女だか森の魔女さんだかは、私たちのうち、どっちに接吻するんだろうね」
「それは、レイラさんです」
カオリが、きっぱりと言う。
「……なんで?」
「レイラさんは、綺麗ですから」
「……」
カオリって、お世辞を言う子だっけ、と、レイラ。
「いきなり接吻されるなんて。意識がぶっ飛んで、気づいたらベッドで裸。それはちょっと、いやだな」
赤くなったレイラは、あはは、と笑い、
「今日は向こうからは、お出ましにならないみたい。それじゃあ、こっちから会いに行くとしようか」
2人は、位置座標を頼りに、自然公園と、私有地エリアの境界を調べる。
ここは、自然公園の端。森が、隣接した私有地エリアになっている。公園と私有地エリアの間には、柵や目印は、何もない。ただ公園から勝手に私有地に迷い込んでいくと、警報器が鳴り、番人ロボット番犬ロボットが現れて追い出される。そういう仕組みだ。
慎重に、境界部分の地面を調べていると。
「あった」
カオリの予想通り、たくさんの足跡。番人ロボット番犬ロボットだ。リョウタは、小屋からエアバイクで全力で逃げ出したといった。警備のロボットの群れは、公園との境界まで、追いかけてきたわけだ。
「この足跡を逆に追っていけば、問題の小屋にたどり着くことができるんだね。そうすれば、そこの所有者もわかる。美女への手がかり、見つかるね」
レイラとカオリ、再びエアバイクにまたがる。
「さ、行くよ。しっかりつかまっててね。リョウタにロボットたちは、追いつけなかった。私たちも全力でぶっとばせば、ロボットたちを振り切って目的地まで行けるはずだよね」
いよいよ発進。
美女の待つ、深い森の奥へ。




