第103話 夢想の美女
「本当に突然でした。突然、情景の中に入ってきたんです。その女性が」
リョウタは、語った。
以前から見つけておいた公園の美しい森林に囲まれた草地の柔らかい光の中で、リョウタは、森林の向こうに見える、青い山々を撮影しようとしていた。
ここは、リョウタのお気に入りの場所だった。何度も撮影しに来ている。季節ごとに、風景が変わるのだ。その一瞬一瞬が、特別な輝きを放っている、リョウタは、そう感じていた。
この日も。
澄み切った空を背後に、山々へカメラを向けると。
出し抜けに、その女性が、入り込んできたのだ。
長く伸ばした赤い髪、赤いドレス。
そして、明るい瞳。
リョウタは、シャッターを切ることができなかった。
震えたのである。
見たこともない美女であった。
美しい画を取ることに情熱を傾けるリョウタ。美を前にして、シャッターチャンスをこれまで決して逃したことがなかったリョウタ。
だが。
カメラを下ろしたのである。
なぜ? 自分でも、よくわからない。
この女性は、カメラには収まりきらない。そう感じたのだ。カメラに収まらない美しさがある。そんなことを感じたのは、これが初めてだった。不意打ちのような出来事だった。
女性は微笑んでいた。
ゆっくりと、近づいてきた。
リョウタは、ずっと身動き1つできなかった。ただ、ただ、美女を見つめていた。その姿を、カメラではなく、自分の瞳に焼き付けようとするかのように。
歩いてきた女性。もう間近。じっとリョウタを見つめている。
そして。
ごく自然に、そっと、リョウタに接吻した。
その瞬間、リョウタは意識を失った。
唇が触れた感触。それは、確かにはっきりと残っている。
◇
リョウタが気づいたとき、全裸でベッドに寝ていた。
部屋には自分以外、誰もいなかった。
ベッドの横の椅子に自分の服がかけてあった。カメラも置いてある。
服を着たリョウタ。部屋を出る。
そこは、小さな森の中の小屋だった。
静かな森の中に1人。小屋の前に、自分の乗ってきたエアバイクが置いてあった。
どこだろう、ここは。意識が飛んでいた間に、何があったのか、全く思い出せない。そしてあの美女は。あの美女が、この小屋にリョウタを連れてきたのだろうか。いったい何だったんだろう。
小屋の中には、疑問を解く手がかりは何もなかった。
リョウタは、エアバイクに乗って、戻ることにする。ここがどこかはわからないが、撮影しようとした場所は、位置座標がわかっている。
エアバイクを森に走らせの時。
警報器が鳴った。
なんだ?
急に怖くなったリョウタ。
エアバイクを飛ばす。
森の樹々の間を疾走していると。番犬ロボットや、番人ロボットが追いかけてきた。その数はどんどん増えていった。
ここは私有地だったのか? 星立自然公園エリアの隣には、広大な私有地エリアがあったはずだ。リョウタが自分の意思で入ったわけじゃないとはいえ、捕まったら、まずそうだ。必死にバイクを飛ばし、何とか自然公園に戻ることができた。
元の撮影場所に戻った。何も変わってなかった。赤いドレスの女性の姿も、なかった。
なんだったんだろう。
自分の夢想の世界へと、迷い込んでしまったのだろうか。そうとしか思えなかった。
だが。
夢想ではなかった。
休日を終え、カメラマンの仕事を始めたリョウタのところに、例の通信が届いたのである。




