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双棍のトラベラー  作者: コルミ
ダンジョンアタック
95/106

睨み合い

 一方の落ちるカルドラは地面との距離を測る。

 そして普通の剣より重量のある漆黒のロングソードを勢いよく下に投げ、剣の慣性を利用して自身の落下スピードを僅かに落とす。


ガンッ


 剣が地面に刺さり…。


どしんっ


 カルドラが足と腕を使い何とか着地に成功。

 手足がびりびりしびれるが、殺気を感じてすぐさま剣のところへ走る。


「ギャアアアス!」

ドガンッ!


 さっきまでカルドラがいた場所にドラゴンの前足が叩きつけられていた。

 カルドラは剣を引き抜きドラゴンに向き直ると、剣を構えて牽制の態勢を取る。

 ドラゴンもそれを見てグルルルル…と唸りながらカルドラを睨みつけて様子を窺う。


(よし、なんとかスタートラインだ。さて…、ここからどうする…)


 剣先をクックッと動かしフェイントを入れつつ牽制する。ドラゴンはそれにただ反応するだけではなく、自らもグッグッっと細かく重心を動かし牽制し返してくる。


(相当頭が良さそうだ…。こいつは魔物だと思わない方が良いな…。歴戦の野生動物と戦うつもりでやらないとあっという間に()られる…)


 目の前のドラゴンは黒い(もや)を纏っている。間違いなく魔物だ。だが"動き"が明らかに普通の魔物ではない。

 普通の魔物ならカルドラのこんな牽制などお構いなしに突撃してくるはずだ。しかしこのドラゴンの魔物は警戒して様子を覗うばかりか牽制し返してくる。間違いなく"思考"している。


(現状は膠着状態…。今のうちにできる限り情報を…)


 細かい牽制の応酬をしながらカルドラはドラゴンを観察する。

 体表は赤黒い甲殻に覆われ、全長は15メートルほど。おそらくドラゴンとしてはかなり小さい。

 四肢はがっしりしており、特に前足の筋肉が発達している。骨格も足というより"腕"のようだ。


(最初もさっきも前足で攻撃してきた。前足での攻撃が中心か…)


 恐ろしいのが、最初に叩き切って縦割りにしてやった方の前足で攻撃してきたことだ。切ったときに悲鳴を上げていたので痛みは感じているはず。しかしその足で攻撃してきたということは痛みを庇うより攻撃を優先しているということ。攻防が始まったらおそらくこいつは止まらない。


(大きな翼も今はきれいに畳まれている。真正面から殴り合う気だな…)


 カルドラの額に汗が滲む。

 おそらく一つ一つの攻撃が致命傷レベルの威力だ。絶対に攻撃を貰うわけにはいかない。

 牽制を継続しつつ周囲の様子を窺い地形を確認する。間違っても袋小路に入るわけにはいかない。

 落ちてきたこの空間は上の2つの階層とは違いかなり狭かった。直径150メートルほどの円柱状の空間だ。


(天井までの高さは20メートルくらいか…。跳躍して上へ戻るのは無理だな…)


 ドラゴンの背後の壁には巨大な魔石が輝いている。ダンジョンコアだ。


(コアさえ破壊できれば勝ちなんだが…、たぶん、そんな隙は無いよな…)


 ダンジョンで生まれた魔物はダンジョンが消えれば共に消滅する。

 つまりあのダンジョンコアを破壊できれば目の前のドラゴンの魔物もおそらく消滅する。

 しかしドラゴンがいるせいでコアに近づくこともできない。


(ジレンマだな…。くそっ…、身動きが取れん…)


 ドラゴンは長い尻尾をゆらゆらぴくぴくさせながら牽制を続けている。

 イラついているような…、楽しんでいるような…、その尻尾からはそんな感情が読み取れる。

 猫みたいなやつだな…、とカルドラが思っていると、ダンジョンコアの周囲の黒い(もや)がいくつかの塊になり始めた。その光景には見覚えがある。


(勘弁してくれ…。この状態で魔物が増えたら詰みだぞ…)


 それは以前街道で見た、オーガの魔物が生まれる瞬間にそっくりだった。

 塊は3つ。カルドラの嫌な予感は的中し、それらは生き物の形を取り始める。

 1つは全長2メートルほどの大きな4本足の鳥のような魔物になり、2つは体高1メートルくらいの猫の魔物になった。

 そして4本足の鳥がドラゴンに向かって襲い掛かった。

 ドラゴンはほんの少し頭を横に傾け背後の鳥を確認し、尻尾を鳥の首に叩きつけ一撃で仕留める。

 4本足の鳥が黒い(きり)になって消えていく横で、2匹の猫の魔物はどこかへ走り去っていった。

 そして再びドラゴンがカルドラに向き直る。


(縄張り争い? 魔物が? それとも一騎打ちの邪魔をされたくなかった…? ……どちらにせよ、おれはこいつだけに集中できるみたいだ…)


 ドラゴンの意図はわからないが、ドラゴンは周囲に自分以外の魔物がいるのを許さないらしい。

 そして鳥を仕留めた尻尾がひゅんひゅんと左右に揺れていたかと思うと、バシンッ!と勢いよく地面に叩きつけられる。


(…! 来る!!!)


 次の瞬間、ドラゴンが射出されるように勢いよく突撃してくる。

 しかも右、左とジグザクにステップし、カルドラの視線を翻弄する。


(くっ! 厄介なっ!)


 回避行動を取ろうにもこれでは攻撃の出所が掴めない。

 カルドラは全神経を集中しドラゴンの動きが攻撃に切り替わる瞬間を見極める。

 そしてドラゴンの左前足が攻撃の予備動作で引かれたのを見逃さず、ドラゴンの左側へ滑り込むように回避行動を取る。


ビュンッ! ガガガッ

「…!」


 まさに猫パンチのような動作でドラゴンの左前足がカルドラを襲う。カルドラはギリギリで回避するが、同時にドラゴンの攻撃が地面を削り取る音が響く。

 その音に肝を冷やしていると、目の前にドラゴンの尻尾が迫ってきていた。


(!!! このやろっ!!!)


 カルドラは剣を棒高跳びの棒のように使い自身の身体を上空へ捻り上げる。なんとかこれも回避に成功。

 ドラゴンの尻尾は剣の刃を勢いよく叩き、しかしカルドラは意地でも剣を放さず暴れる剣を抑え込む。ドラゴンの尻尾は硬い鱗に傷が入っただけで大したダメージにはなっていないようだ。

 そしてドラゴンは突進の勢いのままズザザザァとカルドラから離れていき、カルドラもなんとか体制を整え着地し、ドラゴンに向き直る。

 するとドラゴンはすでにカルドラ目掛けて走ってきている。


(…くそっ! 予想はしてたけど息つく暇もないっ!)

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