アタック開始
「予想通り現状維持か…。交代制とはいえ、坑道内に駐屯するのは気が滅入るな…」
「だよな。休憩はなるべく外に行こうぜ。日を浴びなきゃやってられん」
「同感」
坑道奥の広間にできたダンジョン。
そのダンジョンの入り口を塞ぐように設営されたキャンプ。
そのキャンプでの駐屯任務を言い渡された兵士が愚痴を零す。
上層部の会議の結果、ダンジョンから溢れてくる魔物を対処しつつ次のアタックの準備を進めることになった。それはいいのだが、その準備にかかる時間がとても長いのが問題だった。
近隣の町に応援を要請するそうだが、馬車を使っても往復で結構日数がいる。その間、兵士たちはこのダンジョンの入り口を見張っていなければならないのだ。
「冒険者向けに開放もしたんだよな? 流れの凄腕冒険者でも来てくれないかねぇ」
「はは、無いだろうけど期待しちまうよな」
よくある英雄譚ではこういう状況で颯爽と主人公が現れスピード解決してくれるのが常だ。現実でそんなことは起こらないとわかってはいるものの、あったらいいなぁという憧れもあったりする。
いくつになっても男というのは心の中に少年がいるものなのだ。
そんな会話をしていた兵士の1人が何かに気づき、もう1人に声を掛ける。
「お? なぁ、あれ見ろよ」
「ん? どうしたよ。……おぉ! すげぇ美人だな! ……こんなとこに何の用だ?」
坑道の方から1人の兵士に連れられ3人の一般人が広間に入ってきた。そのうちの1人が今までに見たことのないレベルの美人で、一瞬で目を奪われてしまった。
「あ、いや、それも気にはなるんだが…、男の方だよ。見覚えないか?」
「あぁん? 男ぉ? あ、素振りの兄ちゃんじゃねぇか」
今まで何回か話題に上がっていた例の素振りの兄ちゃんが、ついに目の前に現れたのだ。
兵舎前の広場での素振りを見て腕が良さそうだから来てくれないかなぁと期待はしていたが、まさか本当に現れるとは。
しかし同時に別の感情が湧いてくる。
「あんな美人と一緒に来るとは…。しかも可愛い系の神官様まで一緒じゃねぇか…。羨ましい…」
「虚しくなるからそういうことは考えないようにしようぜ…」
寂しい気持ちを抱きつつ彼らを眺めていると、山になった魔石の前で足を止めた。
「あ、神官様ってことは…」
その神官の女性は自分の背より高く積まれた魔石をまとめて浄化し始めた。
「おいおいおい…、それはさすがに横着しすぎじゃ…」
兵士の心配を余所に、その神官の女性は柔らかい光を放ちながら魔石の山を浄化していく。
そしてあっという間に一山全てを浄化し切ってしまった。
そのまま彼女は隣にあった次の魔石の山の浄化も始める。
「……神官ってすげぇんだな」
「あぁ…」
兵士たちはどこか現実離れしたその光景をぼんやり眺めるのだった。
パァァァァ
「……………はい! 浄化完了です! 他にはありませんか?」
「あ、あぁ…、これで全部だ…。助かったよ…」
アイーシャの浄化を横で見ていた兵士が呆然と返事をする。
アイーシャは満足そうにニコニコしている。
「(なぁサニア。ピュリフィケーション?ってこんな量をまとめて浄化できるものなのか?)」
カルドラがそひそひ声でサニアに尋ねる。
サニアはちょっと困った顔で笑っている。
「(普通は無理なんですけど…。カルさん、アイーシャさんのやることはあまり深く考えない方が良いかと…)」
「(…確かに)」
アイーシャについては深く考えてはいけない。
これはサニアが持っていた教訓だが、この度カルドラにも伝わり、無事2人の共通認識となった。
「さ、浄化も終わりましたし、さっそくダンジョンに潜りましょー!」
アイーシャが元気に右腕を掲げる。
それを聞き兵士が心配そうに確認してくる。
「本当に3人で入るのかい? この通行証は実力のある人にしか渡さないって話だったけど、さすがに無謀じゃないかな?」
この兵士はダンジョンアタックにも参加していたのでダンジョンの中がどんな状態なのかよくわかっていた。なのでそこに3人だけで入るのがどれだけ危険かもわかる。
これは真剣な警告だった。
それについてサニアが返事をした。
「実は坑道の異常を最初に報告したのは私たちなんです。なので小さい魔物の脅威は十分把握しています。ギルドでダンジョン内の状況も伺いました。私たちはその上で入ることを決めたんです。無理だと思ったらすぐに撤退しますので安心してください」
「………そうか、わかった。十分に気をつけてな」
「はい、ありがとうございます」
そしてここまで案内してくれた兵士に見送られ、3人はダンジョンに入った。
入り口からはしばらく下り坂になっており、そのまま下りていくと情報通りとても広い空間に出た。
周囲のいたるところからチューチューキーキーとネズミの声が聞こえる。
「……カルさん、アイーシャさん。私の隣へ」
ポケットから大杖を取り出したサニアに促され、2人は彼女の隣に立った。
そしてすぐにネズミの大群が走ってくるのが見えた。まるで黒い波が押し寄せてくるようだった。
「さっそくいきますよ! サイクロン!」
カンッ!とサニアが大杖で地面に突くと、そこを中心に魔法陣が展開し3人を包んだ。
そして魔法陣の外でゴオオオオオオ!と凄まじい暴風が吹き荒れ、巻き上げられたネズミたちがズババババッと空気の刃で切り刻まれていく。
「うわぁぁぁ……」「ひぇぇぇ……」
刻まれながら舞うネズミを眺め2人は声を漏らす。
そして10秒ほどすると暴風がピタッと止み、魔石がばらばらと降ってきた。
しかしサニアはそれには目もくれず、耳を澄ませ周囲に音を確認する。遠くで微かにネズミの声が聞こえた。
「サイクロンで半径50メートル内のネズミは一掃しましたが、遠くにまだいますね。魔石は無視して先に進みましょう。壁沿いにグルっと回る感じでいいですか?」
「50メートル内を一掃…。……あ、うん、そうだな。左の壁沿いを進もう」
サニアの魔法に面食らうカルドラだったが今は早く移動した方が良いと判断し、サニアの言う通り移動を開始する。
カルドラがトーチで周囲を照らし、左に壁を確認できる距離を保ちながら早足で進む。
歩きながらサニアが右側に大杖を伸ばし地面をトンッと叩くと、そこに横長の氷の板が生成される。少し歩くとまた同じように大杖で地面を叩き、氷の板を生成する。
「サニア。それはなにをやってるんだ?」
サニアの行動を不思議に思ったカルドラが質問する。
「マーカー代わりですね。この空間がどんな形かわかりませんけど、もし壁に囲まれた空間かつ壁に次へ進む道が無かった場合、この広大な空間から道を探し当てなくちゃならなくなります。このアイスウォールを目印にして今みたいにぐるぐる中心に向かって歩いて行けば、時間は掛かってもそのうち道が見つかるはずです」
「ほぇぇ、さすがサニアさん、頭良いですぅ」
アイーシャに褒められサニアが恥ずかしそうに照れている。
ダンジョン内ではあるが、そのやり取りを見てカルドラは少しほっこりする。
「あ! サニアさん! 前からネズミの塊が――」
「トルネードエッジ!」
ネズミの一団を発見したアイーシャの声に素早くサニアが反応し、言い終わる前に魔法を発動。
突き出された大杖からブワアアアアと横向きの竜巻がネズミに向かって伸び、一団を巻き込むとズババババっと空気の刃がネズミたちを切り刻む。
難を逃れた数匹がこちらに向かって走ってきたが…。
「エアカッター」
ズバババッ
サニアが軽く処理し、何事もなかったかのようにまた歩き出した。
カルドラとアイーシャは唖然としつつサニアについていく。




