生物じゃないモノ
とある街道。
次の町へ向かっていたカルドラとアイーシャは黒い靄を纏うゴブリンの襲撃を受けていた。
「アイーシャ! 大丈夫か!?」
「問題ありません! カルさんはそのまま迎撃してください!」
「わかった!」
カルドラは目の前のゴブリンの頭蓋を棍棒で破壊した。するとゴブリンは黒い霧となり、小さな石を残し消滅する。
「こっちは仕留めた! アイーシャ! そっちは何体いる!?」
「3体います! プロテクションをぽこぽこ殴ってます!」
アイーシャはドーム状の防御魔法、プロテクションを展開しており、その防壁を破壊しようとゴブリンが木の棍棒で攻撃していた。
「今行く!」
身体強化で加速したカルドラがゴブリンの頭蓋を次々に破壊。さっきのゴブリン同様小さな石を残し消滅。これで襲ってきたゴブリンは全て倒した。
「ふーーー。びっくりしましたね、カルさん」
「待て待て、まだ気を抜くな。周囲の確認してくるからそのまま"それ"に入ってろ」
「はーい、わかりました。気を付けてくださいね」
「おー」
そう言ってカルドラは身体強化を維持したまま茂みに走っていき、アイーシャの視界から消えた。それを見送った彼女は、プロテクションの中から先ほどのゴブリンが残した小さな石を見る。
(ゴブリンの魔物…。こんな街道にいるなんて…)
ゴブリン。本来彼らはとても臆病で、人の気配を感じるとすぐに逃げてしまう。森の奥でひっそり暮らし、街道には近づきすらしない。しかしそれは動物として生きているゴブリンの話。
この世界には動物のほかに"魔物"という、生物のようで全く違うモノが存在する。それらは魔力が淀んだ場所で自然発生し、その姿は様々だ。ウサギだったり狼だったり、中には人の形をした魔物も存在する。今回のゴブリンもそんな、人型種族の形を取った魔物だった。
ちなみに動物と魔物の見分け方は簡単で、魔物は体表に黒い靄を纏っているのですぐ分かる。
「アイーシャ。周囲に残存する魔物は無し。もう大丈夫だ」
あっという間に戻ってきたカルドラが索敵の結果を報告する。
「カルさん、ありがとうございました」
そう言って展開していたプロテクションを解除するアイーシャ。ゴブリンの魔物が残した小さい石を回収しながらカルドラが話す。
「無事だったから良かったけど、結構ひやっとしたよ。先行して悪かった。アイーシャが防御魔法使えて良かったよ」
そう。先ほどは目の前に1体のゴブリンが現れ、カルドラが迎撃に向かったところをアイーシャの背後から3体のゴブリンが現れ襲撃を受けたのだ。
「私も、まさか魔物が囮を使うとは思いませんでした…。でも私たちのパーティーの初戦闘で初勝利です! 今は喜びましょう!」
「ふふ、そうだな」
アイーシャが前向きに鼓舞し、空気を明るくする。
(…アイーシャのこの明るさは武器だな)
心の中で褒めるカルドラ。
しかし喜んでばかりもいられない。この戦闘を経験し、早急にやらなければならないことができた。
「よし、魔石は回収完了。これおれが持っておくな」
「了解です」
魔石とは魔物が持つ核のようなもので、先ほどゴブリンの魔物が残した小さな石がそれだ。
そのままでは使えないが、淀んだ魔力を浄化すれば魔道具の動力などに使えるため、街のギルドでそこそこの値で買い取ってもらえる。
「アイーシャ、疲れてないか?」
「大丈夫です! カルさんこそ大丈夫ですか?」
「おれも問題ない。よし、出発しよう」
「おー!」
互いに疲労を確認し合い、次の町へ再出発だ。
そして歩きつつ、早急にやらなければならないことに着手する。
「なぁ、さっきのアイーシャの防御魔法ってどんな魔法なんだ?」
「え? プロテクションですか? 壁を作って防御する魔法です」
普通に答えてくれるアイーシャ。だがそうじゃない。
「ごめん、聞き方が悪かった。"どんな点が優秀"で、"どんな弱点があるか"を教えてくれ」
ここまで話すとアイーシャもカルドラが言いたいことを理解したようだ。
「なるほど。私たちってお互いの長所と短所をまったく知らないんですね…」
そうなのだ。パーティーを組んでから早3日。ここまでいろいろな話をしてきたが、どれも戦闘とは無縁の話ばかり。冒険者のパーティーなら組んだその日のうちにある程度の個人の能力について共有するものだ。しかしカルドラたちは旅人のパーティー。戦闘の事がすっかり頭から抜け落ちていた。
「さっきの戦闘で個人の情報はある程度共有すべきだと痛感した。教えたくないものは教えなくて大丈夫だから、基本的な戦闘スタイルとか、使える魔法については共有しておこう。今のうちにな」
「そうですね。それが良いと思います」
アイーシャも納得し、情報の共有作業が始まる。




