守護神様の頼み事
それからすぐに注文していた料理が運ばれてきた。
とりあえず食べよう、ということで黙々と料理を食べる3人。
カルドラは食べながら、今は宿のベッドで寝ているであろうソラの顔を思い浮かべていた。
(宇宙の子…、確かにとんでもない存在だ。でも冷静に考えてみるとドラゴンって時点でとんでもない存在なんだよな…。今までずっと一緒にいたから感覚が麻痺がしてたけど…)
龍脈の化身、環境の守護神。いろいろな呼び名で語り継がれるドラゴン。そんな種族の彼がなぜかずっとカルドラにくっ付いて離れない。ソラは本当に不思議なドラゴンだ。
そして一通り料理を食べ終わった3人。一息ついたところでカルドラが話し出す。
「食べながらいろいろ考えてたんだけどさ。別にソラがどこの生まれだろうが、おれたちにはあんまり関係ないんだよな。ソラは自分の意思でおれたちと一緒にいてくれてる。結局、ソラはソラなんだよな」
カルドラが納得したように話すと、アイーシャとサニアも頷く。
「そうですね。私も最初びっくりして固まっちゃいましたけど、普段のソラちゃんの行動を思い出してたらいろいろどうでもいいんだなって思っちゃいました」
「ですね。あの子が私たちに向けてくれている信頼は本物です。生まれがどこでも私たちの関係が変わるわけじゃないですしね」
3人で微笑み頷き合う。
ソラの事はこれ以上話す必要はない。ソラはいつも一緒にいてくれている。それが全てだ。
そしてまったりしていたカルドラだが、鉱山のドラゴン関係の話でもう1つ、2人に共有しなければならないことがあるのを思い出す。
「すまん2人とも。ソラの話で盛大に方向が逸れて重要なことを1つ伝え忘れてた。今坑道で魔物の掃討作戦やってるだろ? あの魔物の発生原因、魔族かもしれない」
「ちょっ…! カルさん! それ忘れていい話じゃないですよ!」
「詳しく聞かせてください」
世間話のような口調で話すカルドラに突っ込みを入れるアイーシャと、真剣に情報を求めるサニア。
あのドラゴンが言っていたことを思い出しながらカルドラが話す。
「あのドラゴンの話だと、20日くらい前に魔族が坑道内で"何か"やってダンジョンを作ったらしい。で、魔力が停滞して迷惑だから破壊してきてほしいって頼まれた。坑道内だからあのドラゴンも対応できないんだってさ」
「そんな…軽いお使いみたいなノリで…」
カルドラの話に呆れるアイーシャ。しかしカルドラも適当に頼みを引き受けたわけではない。環境の守護神様直々の頼みだ。断るのはさすがに勇気がいる。
「"何か"って…何をやったんでしょうか…。そういえば森で戦った魔族も狼の魔物を使ってましたね。もしかして魔族は魔力の淀みを意図的に作り出せる…?」
サニアがいろいろ考えている。確かによくよく考えてみれば魔族と戦ったときに魔物が出てきたのは不自然だ。魔族に一点集中していたので出所を全く気にしてなかった。
「魔力の淀みを作れるならダンジョンも作れる…と。ドラゴンも言ってたけど迷惑なやつらだな…」
「それよりカルさん。ドラゴンさんからダンジョンの破壊を引き受けちゃったんですか? 今のカルさんは坑道では戦えないんですよ?」
魔族に対する感想を零しているとアイーシャが心配そうな顔で聞いてきた。
確かに今のカルドラはロングソードしか持っていないので坑道では戦えない。だから昨日ギルドで話を振られた時も掃討作戦への参加を見送ったのだ。
それについての考えを話す。
「環境の守護神様直々の頼みだからなぁ。なんとかやってみるとは伝えた。でも最終的にダンジョンを破壊できればいいんだ。おれが破壊する必要はない。だから明日ギルドで作戦の進行状況を聞いて、ダンジョンを発見できているか、発見できているなら内部の広さはどんな感じか、その辺を確認しようと思ってるよ。ダンジョンの内部が広いなら今のおれでも戦える。坑道みたいに狭いダンジョンなら、ドラゴンに会いに行って"おれは戦えないけど町の皆ががんばってるよ"って伝えてくるよ。あ、2人が嫌なら普通に断って来るから安心してくれ。あのドラゴン話がわかるやつだからたぶん断っても問題ない」
カルドラの話を聞きアイーシャとサニアは顔を見合わせ、頷き合う。
「それなら私たちも協力します。確かに守護神様直々のお願いを断るのは畏れ多いですし…」
「でもダンジョンの中が広くても小さい魔物がいっぱいなのは変わらないはずです。だから今回も私とサニアさんで戦います。カルさんはあくまで秘密兵器です。大人しくしててくださいね!」
「わかったよ。おれはサポートに徹する。よろしくな、2人とも」
「任せてください」「お任せです!」
その頃、坑道内のダンジョン入り口に設置されたキャンプでは、兵士と冒険者が待機状態にあった。
ダンジョンアタックが全く進展せず、一先ずアタックを中断し上層部が対策会議を開いているのだ。
坑道内の魔物は巡回のおかげでほぼ一掃され、待機している者たちは現在、時々ダンジョンから出てくる魔物を処理しながら会議の結果を待っていた。
「やれやれ、どんな判断になるかねぇ。おれにはあの大量の魔物の中を進む方法が思いつかねぇけど」
「な。ダンジョンの入り口の横に魔石がどんどん貯まっていくけど、小さすぎて実用性はほとんどないし、でも放置もできないし。あれもどうするんだろうな」
魔物を倒せばその核である魔石が残る。しかし小動物サイズの魔物の魔石は小さいため、使い道がほとんどない。
結果、ダンジョンから出てきた魔物を倒して残された魔石は箒で掃かれ、入り口横に雑にまとめられている。
魔石はそれ自体が淀んだ魔力の結晶である。浄化しないとそのうち魔物が生まれたりダンジョンになったりしてしまう。あまり一塊にして放置するのはよろしくない。
しかし実はこの町には教会が無いため神官がいない。浄化するには魔石を近隣の町へ運ぶか、神官に来てもらう必要がある。そのあたりをどうするかも会議で話し合われている。
「なぁ。このダンジョン破壊するまで何日かかると思う?」
「んー……。正直今の戦力じゃこれ以上進めないしな…。他の町から助っ人を呼ぶにしてもそれだけで何日も掛かる。少なく見積もっても一ヶ月以上、おれたち兵士はこのキャンプで働くことになるだろうな」
「だよなぁ…」
とりあえずこの入り口さえ押さえておけば坑道が魔物で溢れ返ることはない。
ダンジョン破壊の目途が立つまで現状を維持するのが現実的な策になるだろう。
「あの素振りの兄ちゃん、掃討作戦に参加しなくて正解だったな」
「はは、確かに。良い勘してたってことだな」
来てくれると助かるなぁと、兵士たちが淡い期待を寄せていた素振りの兄ちゃん。今日も彼は現れなかった。
兵士たちは結果的に面倒事をうまく回避した名も知らぬ彼の話で笑い合うのだった。
一方その素振りの兄ちゃんことカルドラは、食事が終わってからまた広場に足を運んでいた。
いつも剣を振っていた定位置に立ち、頭の中でダンジョンでの立ち回りを想像する。
(もしダンジョン内が広くても、戦う相手は小動物サイズの魔物。やっぱりロングソードじゃ対応が難しい…)
そう思い、ポケットから戦闘用ではない小さなナイフと包丁を取り出す。
この2本は旅の途中で狩った動物を解体するために持ち歩いているものだ。戦闘用ではないため強度はお察しだ。
(……もしもの時はこれで対応するしかない。よし、始めるか)
そしてカルドラは、襲い掛かる小さな魔物の群れを想像しながらナイフと包丁を振り始める。
傍から見たら変質者そのものだが、彼は気にせずに素振りに没頭するのだった。




